アルティメット・トリオ
黒のクワメと白のシレシア
プロローグ(前)
「…い、痛い……」
タタ、タタ、
足音がした。
さっきの賊共が!
「く、くっそ…きさまら、せ、セシリアにーなんてことを...」
ひそひそ、ひそひそ、
どうやら、あの連中は小さな声で何かを議論しているようだ。
「…く、くるしい……」
タタ、タタ、
またも足音が近づいてきた!
今は、……片方の目が凄く痛くて血塗られているのであまり見えないが、間違いなく、俺の大切な家族をー!
その手にかけた属共だ!視界を失った前に見てしまったんだ!家族が!か、家族がぁッ!
「ゆ、…ゆるさない!ぜったいに…」
呪いの言葉を静かに漏らしている一人の男の子以外に、壮大な礼拝堂に冷たい沈黙が満ちていた。荘厳なステンドグラスから差し込む光が、床に散乱した死体の上で淡い色の輝きを放っていた。
「ぜったいに……ゆるさない!ころす…」
礼拝堂はバークウィッチ王国の主な信仰である女神ルヴェナに捧げられたもので、その神聖さを象徴するかのように、内部は華やかな装飾品と高価な絵画で飾られていた。しかし、今やその神聖な場所は、血と絶望に染まっていた。
「こ、ころして…やるっ!」
チリチリの髪の毛と黒い肌の少年が冷たい石の床に倒れていた。血が傷口から溢れ、薄い命の灯が消えかけている。彼の片目は深い切り傷によって失明しており、視界は半分しか残っていなかった。
彼は見た目から判断すればただの10代前半の少年みたいで、明るい茶色の目を持ち、犯人達に向かって漏らした呪いの言葉から察するに誰よりも家族を愛していたようだ。
周囲には豪奢な神官服、ドレスや制服を着た色白い肌の女性たちの死体が散らばっていた。それは黒い肌の男の子の里親家族らしくて、彼を愛し守ってくれた人々のようだった。
女性でありながらもこの辺境地域における最高権力者の女大神官にして侯爵夫人クラリス・ド・クライスラー、その夫である神父アルバート、夫妻の娘にして長女であるお姉さん的な外見をしている金髪ロングのマリア、そして何よりも黒い肌の男の子にとっての大切な妹のセシリア。
全員が黒いローブをまとった男たちによって、無残にも命を奪われた。彼の視界には、残酷な光景が焼き付いていた。
彼の体は痛みに震え、意識は遠のいていく。死が彼を覆い尽くそうとしていたが、その刹那、彼の片方の目に映ったのは他の黒いローブ着てた男と違って、一人の白いローブを着た、容姿からすれば少女らしき者の存在に気付いた!
彼女は軽蔑の笑みを浮かべながら、ゆっくりと近づいてきた。少女はローブを脱ぎ捨て、その下に隠されていた豪華なフリルのドレスを露わにした。
「いいですか、プレセラ様? そうすれば、彼はあなたの正体を知ることになるでしょう」
「構いませんよ、グランツ。結局のところ、私が誰かなんて、死人には関係ないですもの」
彼女の言葉は冷たく、感情の欠片もなかった。プレセラと呼ばれた金髪ツインテ―ルの少女は、ローブを着た男の一人に指示を出すと、男はティアラを彼女に渡した。プレセラはそれを頭に置き、彼の方に目を向けた。
タタ...
ゆっくりと床に転がっている褐色肌の男の子の近くまで歩みを進めたその高貴らしき少女は、次には異次元魔法収納ポケットから魔法の棍棒を取り出したようだ!
「(いや! 俺は…ここで息絶えたりなんてしてやれるものか! うぐっ!こほこほ!母さん、父さん、そして…俺の愛しい妹セシリア! もし俺がここで死んだら、誰が…正義の鉄槌を…下すんだろう!)」
彼は心の中で叫び、必死に生きようとした。
「おまえら全員をころしてやるまで、ぜったいに死んでやれるものかー!ごほっ!」
血を噴き出しながらもやっと大声らしき声を出した少年だったが、
「あら?弱い虫けらほど良く吠えますわね?だけど、残念…」
しかし、その願いは無情にも打ち砕かれた。プレセラは魔法の棍棒を何のためらいもなく彼の頭に振り下ろした。
「お兄様!お兄様!今日わたしの誕生日パティーに参加してくれてたみんなさん、すごくお兄様のこと注目してくれてましたよ?やっぱり、わたしの自慢のかっこいいお兄様がそんなにも大勢の方の熱線を浴びせられると、ちょっと誇らしくもなりますね、えへへへ...」
凶器が俺の頭に振り下ろされる寸前で、走馬灯のように今までの人生の光景が早送りのようにフラッシュバックされ、けど妹とのもっとも尊い思い出だった1年前のセシリアの誕生日パティーの光景だけに時間が巻き戻ってみたいに思い出されー
「あ、ははは、...まあ、セシリアはああ言ってくれてるのは嬉しいけど、別に俺自身はそこまで自分がかっこいいとは思わないけどな...なにせ、俺よりセシリアの方がそのフリフリなキラキラなドレスを会場に着てきた最初からみんなの注目の方がずっと上みたいだったし、それにみんなと違って、俺は肌黒いしー」
すー!
んふっ?
いきなりセシリアが手を伸ばして俺の口を塞いできた。
(それだけは言わないでって何度も言ってきたのに、変なお兄様!もう~!お兄様のお肌がどれだけ黒かろうと、どれぐらい気に入らなかったり、不気味に思う人がいるとしても、そう自分の事を卑下することもないでしょう~!)
(で、でも......この間も俺に向かって、この国には要らないって暗に仄めかしたような言い方をしてたあの公爵ー)
(あの嫌な人の言葉にー!耳を傾けるだけ無駄ですよ?それに、あのやなハゲさんのお兄様に対する評価を気にしなくてもいいんでしょう?だってー)
ずいー!
(うおおー!?)
いきなりダンスホールのすぐ外のヴェランダに連れ出された俺は、
(他にいっぱい、お兄様のことを良く評価したり受けいれてくれたり、好きな人もいますよ?現にー)
カッかッカッー!
ぎゅっとー!
高級なハイヒール靴の足音を鳴らしながら妹がいきなり甘えるように背伸びしてきて、そしてハグされた!
(こうして、お兄様の事が大好きで、世界一、一番かっこいいお兄様だと思ってるわたしもこんな近くにいますよ?えへへ...)
妹セシリアの黄金色の髪の毛が風に揺られ、ドレスの裾もひらひらしながら勢いよく抱擁された俺は、それで感じたこの妙な感覚はー
(あぁぁ.....やっぱり、それは他に何も勝ることのできない、最高な思い出だった!)
(セシリア......血のつながりもなく、肌色も親も遺伝子もまったく違う人種の俺らだったのにも関わらず、やっぱりそんな外見的な違いなど気にせず、まるで真の家族、実の兄として俺の事をずっと前から受け入れ、一番懐いてきて、一番慕ってくれていた妹セシリアこそは、俺が誰よりももっと守るべき子だったのに!こんな!こんな訳の分らない連中にー!)
ブチッ!ブチッ!
衝撃が走り、俺の視界は暗闇に包まれた。意識が途切れ、全ての感覚が遠のいていく。
…………………………
………………
………
「...?ん?」
「あれ?こ、...こは?」
しかし、死の淵で彼の魂はまだ消えていなかった。幽体離脱のように、彼の意識は体から離れ、暗闇の中を漂った。
「...これって」
でも、何故かは知らないけど、徐々にその暗い空間もちょっとだけ明るくなってきた。
そして、その時、どこからか声が響いてきた。
「優しさと愛であなたを養子にしてくれた家族の仇討ちをしたいのよね?」
発したその声の主も見つけ出せず、どこからともなく彼に聞いたようだが、その問いかけに対して少年の魂は一瞬にして即答した。
「言われるまでもない。7年間もの間、俺の事を何の不自由もなく育ってくれて、俺にとってのかけがえのない大切な里親家族の命を無惨にも奪ったんだから、何があっても奴らのことだけは絶対に許さない!ぜ、絶対に...殺してやるんだ!」
それを言い切ったら、俺の声が深い闇の中から引き上げられようとしているのを感じた。俺の中で何かが目覚め、憎しみと復讐心が静かに燃え始める感覚を覚えた。魂?な状態であるのにも関わらずだ。
でも、これでいいんだ。
なぜなら、俺には家族全員の無念を晴らす必要だけじゃなくて、セシリアとの『約束』を守れなかったことに対して、自分自身も許さなかった。
俺が弱かったから、セシリアを守れなかった。
だから、これから何があっても、セシリの仇だけはこの俺の手でー
「あの薄気味笑いしてる最悪な女のことも黒いローブの男共も、一人残らず、殺してやるー!!」
そうと誓った俺は、魂の状態なのにまるで声らしき音を大きく上げ、それと同時に沸々と身を焦がすような激しい怒り、暗い憎悪が静かに内側から燃え上がる感覚を覚えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます