屍にウイスキーを

鳳仙 涙々

プロローグ

「先生」

 足を震わせ、今にも泣きそうな、か細い声でその少女は云う。


 その少女の手には、誰かのあかで染った包丁が目一杯に握られている。ポタポタと滴が床に落ち、その赤を広めながら絨毯を汚していく。


 「わたし、人を刺しました……、死んじゃってたら、どう……したらいいんでしょうか、罪に問われますよね。捕まっちゃいますよね……嫌です!私捕まりたくないです!どうしよう……どうしよう……」


 焦っていて、情緒不安定な少女は「どうしよう」と何度か呟いた後、興奮しすぎたせいか足をふらつかせ、頭を本棚に打ち付けそのまま床に倒れこんだ。


 さて、この子をどうしよう。


 このまま置いておけば、直に目は覚めるだろう。ただ、この状況を何も知らない他人に見られたら、俺はよく分からない冤罪をかけられるだろう。


 置いて姿を消すか?それとも、ロッカーやどこかに隠すか?いや、いっその事、捕まるのが嫌ならば眠っている今の内に殺してしまおうか。


 あれやこれやと考え最終的に先生らしく、教師らしく相手の気持ちになって考えてみた。


 その結果、俺がもしこの状況になったなら多分殺された方がマシだという考えにまとまった。


 だから、殺すことにした。

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屍にウイスキーを 鳳仙 涙々 @ho_sen_610

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