第2話 風見真凜14歳。中学2年生。思春期
よし。掃除完了。
今日は、
対人ゲームがしたいとき、隣の家にあいつが住んでるの、ほんと便利だよなー。
家と家が隣で、窓から窓に移動できるなんて、ラブコメみたいだ。
あ。そうだ。窓の鍵を開けておかないと。
うっ……。
なっ、なんだ。体が熱い……。
視界がぼやける。
あ、頭も、ぼーっとしてきた。
ううっ。
ま、まさか、また、あれか……。
ボフッ……。
俺はベッドにうつ伏せになって倒れた。
はあはあ……。
体がぜんぜん言うことを聞かない。
目もよく見えない。
やっぱりそうだ。また俺、赤ちゃんになるんだ!
だ、駄目だ。頭も徐々に……赤ちゃんに……。
考えが纏まらない……。
ガチャッ!
「遊びに来たよ~。今日も窓から来ると思ったー? 残念。スカートだから、玄関から来ましたー。……あれ? いない?」
「おかしいな。新作ゲームを買ったから来いって言ったのあいつなのに」
「ま、いっか適当に漫画でも読んで待ってよ。ベッド、借りまーす」
「うわっ?! なんでベッドに赤ちゃんが?!」
「わーっ! 危ない! じっとして! 落ちちゃう!」
「ふうっ。セーフ……。よーしよし。よーしよし」
「小っちゃくて可愛いでちゅねー。君、誰でちゅか~?」
「ほ~ら。どこか行っちゃわないように、お姉ちゃんの太ももの上で、じっとしていようね~。はい。ひっくり返った~。もう逃げられないよ~。こしょこしょこしょ~」
「あはは。可愛いねえ。うちのいちばん小っちゃい弟より、もっと小っちゃい」
「はーい。いないない……ば~~っ!」
「いないない……ば~~っ!」
「あははっ。本当に、可愛い。目元があいつと似ているし、もしかして親戚かな? あ~~。分かんないよね~~。よしよし」
「ふむふむ。分かったぞ。この子は裸。ベッドには、あいつの服が脱ぎ散らかしてある。つまり、あいつはこの子の子守をしていたけど、急に離乳食とかオムツとか何かが必要になって、着替えて探しに行ったんだ」
「私がすぐに来ること分かっていたからって、油断しすぎ~。こんな可愛い子を一人で置いていくなんて~。悪い人に連れていかれちゃうよ? 私が連れていっちゃおっかなあ。うち、弟ばかりだし」
「あ。君はどっちかな。あははっ。うちのちびとおんなじのついてる。男の子でちゅねー」
「はーい。よしよし。ぐずってどうしちゃったのかなー? おちんちん見られて恥ずかちいのかなー?」
「あはっ。しょうがないし、あいつが戻ってくるまで、私が面倒を見ててあげるか~。将来の練習、みたいな」
「あはははっ! ないない。あいつと、そういうの、ないし!」
「中学生になったら急につきあいだす友達が増えたけどさー。そういうのってまだ早いでしょ? よく『まりん達つきあってるのー?』って言われるけど、私達、そう見られてるのかなー」
「じゃあ、あーくんとわたし、つきあっちゃう?」
「あはっ。なんか顔が熱くなってきちゃった。ま、まあ、完全にないとは言い切れない……かな。でもさー。つきあうなら高校に入ってからだよね。ただ、あーくんにいっぱい勉強してもらって、私と同じ高校に受かってもらわないといけないんだけどねー」
「あ~んっ、ごめんね。君のこと忘れてないよ~。ほ~ら、ほっぺたぷにぷに~。どうしたのかな~。君も顔まっかだよ~。右ぷに~。左ぷに~。か~ら~の。左右から両ぷに~。ぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷに! ぷに~っ!」
「あははっ。『きゃうっ』だって。『きゃうっ』って言った。可愛い~。あははっ。あいつも小さい頃は、これくらい可愛かったのかな~」
「ん~? あいつっていうのはね~。君のお兄ちゃんか親戚。この部屋の子だよ~。私の幼馴染みってやつ。保育園の頃から、ず~~~~っと一緒なの。今日もね~。一緒にゲームしよって言われたから来たんだけど、いないんだよ~。あいつがどこに行ったか知ってる~? 知らないよね~」
「あー。私のポニテ、気になる~? ほーら、お鼻くしゅくしゅ~。右耳もくしゅくしゅ~。あははっ。左耳もくしゅくしゅ~。気持ちいいでしゅか~?」
「ほ~ら。だうだう、だう~っ。ポニテは引っ張っちゃ駄目だから、代わりに私の人差し指~っ、ぎゅーってして、ぎゅ~って。はい、よくできました~」
「は~……。たまんな……。こんな可愛い生き物がいるなんて反則だよ。うちの弟も、これくらいに戻ってほしいなあ」
「あれ? こんなところに綿棒がある。もしかして、耳かきするところだったのかな?」
「じゃあ、お姉ちゃんがしてあげるね」
「姿勢を変えて、頭をお姉ちゃんの太ももの上に載せて、ごろーんしましょうねー」
「お姉ちゃん、耳かき上手だから安心してねー。弟でいーっぱい、練習したから。右耳からいくね……」
こしょこしょ……。
「こーしょ。こーしょ。くすぐったいけど、我慢してねー」
「もうちょっと奥までいくからね」
こしょこしょ……。
「痛くないでちゅか~? こーしょ。こーしょ」
「はーい。大人しくできてえらいねー。それじゃ。反対側もこしょこしょしてあげるね。反対側にごろ~ん。ほーら。お姉ちゃん、ごろーんさせるの上手でしょー」
「左耳のお掃除しましゅね~。じっとしてくだちゃいねー」
こしょこしょ……。
「ちっちゃなお耳でしゅねー。こーしょこしょ」
こしょこしょ……。
「こーしょ。こーしょ。くすぐったいけど、我慢してねー」
「はーい。耳かき、終了でーす。よくできました。よしよし」
「それにしてもあいつ、まだ戻ってこない。どこに行ったんだろ。トイレでお腹痛くて動けないのかな。見に行くかー」
「ちょーっとだけ待っててね。お姉ちゃんすぐに、戻ってくるからね~。君のことをほったらかしにしている馬鹿を見つけたら『めっ!』して、すぐに戻ってくるから、それまで一人でお留守番しててね~」
ガチャッ。
タンタンタンタン……。
「あーくん、どこー? いないのー?」
うっ、か、体が熱い……。
はあはあ……。
裸になってる。
どうやら、また赤ちゃん化していたようだ。
はっきり覚えていないけど、なんか真凜にあやされていた気がする。
タンタンタンタン……。
「……まったくどこに行ったんだか……」
部屋の外から真凜の声が近づいてくる!
やばい。
俺、全裸!
ガチャッ。
「帰ってきまち……うわっ! 着替えてるなら言ってよ!」
バタンッ!
ドアが開いた直後、すぐに閉まった。
着替えるのは間に合わなかったが、トランクスだけは穿けたから、最悪の事態は避けられた。
それにしても、なんなんだよ。俺、変な病気なのかなあ。
好きな子のことを考えていると赤ちゃんになるなんて、こんなの普通じゃない。人に相談できない……。
「ねー、あーくん。どこにいたの―? というか、その赤ちゃんどうしたの?」
ドアの向こうから話しかけられた。
どうしよう。なんて誤魔化せばいんだ!
だ、誰か教えてくれ!
「ねー? 返事しなってー。いるんでしょ? 着替え終わったー? 入るよー? まだ? 早くしてー」
く、くう……。困った。
お前が来るのが楽しみで浮かれていたら赤ちゃんになったなんて言えるか!
「着替え終わったね? じゃ、入るよ……」
ガチャッ。
あ。ま、待て。
「あれ? 赤ちゃんは?」
……えっと。
ちょうど今、親戚の人が来て、連れて帰った。ほんと、今。ぎりぎりのすれ違いだね。
「はあ? 私が部屋から出ている間に親戚の人が来て連れ帰った? あの一瞬で? ……そんな急用ある?!」
本当だから!
なんだったら、部屋中探してくれていいし。
「ま、まあ、信じるけど……。ね、またこんど、さっきの子が来たら、会わせて。ね?」
お、おう。
善処する……。
「楽しみ―。すっごく可愛かったんだもん。私もあんな赤ちゃんが……。えっと、な、なんでもない」
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