夢日記240711

「おい、社長に挨拶へ行くぞ」

と突然、俺に声がかかる。

声のした方へ振り返るが、誰なのかは分からない。顔には白い靄が掛かっている。

けど、確かに声はするのだ。


「なんで僕が挨拶へ行くことになるんですか?」

と、その靄に向かって問いかけてみる。


「それはなぁ。有名企業の重役だぞ」


そりゃ社長は重役に決まってるだろう。

最上級の重役だが、理由になっていない。

結局、俺はその社長とやらに挨拶しに行くことにした。高校の同級生2人を従えて。

2人は医療従事者。俺は医療従事者ではない。

同級生って繋がりだけでついてきた。


社長との挨拶の場はトイレで生まれた。

かしこまった場で済ませるはずなのだが

向こうからトイレでしっかり挨拶しようとしてきたのだから仕方ない。


社長は「計(はかり)です」と名乗った。

どこの社長なのかは、分からないままだ。


同級生2人が、俺に先立って挨拶を終える。

どちらも非常に愛想が良く、スムーズに俺の番まで来た。


「計です。あなたは?」

「筒香(つつごう)と申します」

咄嗟に偽名を使った。


「……ツツゴ?」

「物を入れる筒に、香りと書いて筒香です」


他人の名前なのに、一文字ずつ丁寧に説明してあげた。

それでも計さんは、苗字に関心を示しているようだ。

有名人と同じだからだと思ったが、そうではなかった。


「筒香……みずみずしい苗字だね」


どこがだ。

なにもみずみずしさなんかないわ。

それはもしかして冗談で言ってるのか?

ニュアンスの話か?はっきりせえや。


そんなツッコミは閉まっておいて、

「ここまで生きてきて、みずみずしいという

表現で感想を伝えられたのは初めてです」

と、お世辞めいた感想を伝えた。


すると、計さんはそれを聞いて、ふっと、鼻息を上げた。

「君はつまらない人間だね」


なんだこいつ?


俺を一蹴するかのように、冷ややかな目を向ける。


今、つまらないって言ったよな?

戸惑う俺に、彼はもう一度、口を開いた。


「卒業論文を読んだけど、つまらない人間だ」

「あれは若気の至りですから」


こいつが何者なのかは知らないが、

気がつくと俺は歯向かっていた。


「卒論は学生の自分が若気の至りで書いたところもあります。それに年数が経てば、私も貴方も感受性が変わって、私への感想が変わるかもしれないですね」


怒るというよりは、あえて諭すような口調で、俺は自分の意見を述べた。

そのパフォーマンスで相手を怒らせたのかは分からない。ただ、その口調を選んだのは、敢えて相手の気持ちを逆撫でようとしたってことははっきりしていた。


結局、なんの社長なのか分からないまま、計さんは姿を消した。


トイレから出ると、そこには地上に繋がるのぼり階段が。トイレは地下で、外は高校のビオトープに繋がっていたのだった。

同級生二人とロッカーで外靴に履き替え、ベンチに腰掛ける。


「権力ある人に強く出られたら歯向かう癖が

どうしても出ちゃうんだよなぁ」


俺は急に懐かしさからなのか、そんなことを息巻いて話し始めて。

同級生の一人が「お前ほんまさぁ」と、俺を嗜め始めたところで目が覚めた。


なんかすごい「生きてる」って感じがした。


ここまでの生活が無気力だったとか、上に歯向かいたいとか、そういうマインドだったのかは「記憶にない」と表現させて頂き、この話を終わりにしたい。

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