シーカー協会

 シーカー協会とは、シーカーが仕事をしていくためのサポートや資格取得のサポート、そしてダンジョンの管理を行うための機関である。


 駅近くにあるシーカー協会支部において、バミィはフェクトと共にCランクダンジョンで得た素材や魔石の売却手続きをしていた。ダンジョン攻略分の報酬はクリアした時点でランクに応じた報酬が振り込まれることが確定するが、素材は売却しなければ意味がない。


 協会支部は小さな市役所のような設備の建物だ。受付の女性が、にこやかに対応してくれる。


「素材と魔石はどのようにしますか」

「ボクのは全部ライザーに売却で」


 ライザーというのは、バミィがたまに案件をもらうダンジョン攻略装備などを開発、販売している企業であった。


 シーカー協会に登録してある企業であれば、企業を指定して素材と魔石を売却できる。とはいっても最初はシーカー側から協会と売却したい企業を指定して、認定を受けないといけないのだが。シーカー協会に買い取ってもらう場合は適正価格で買い取ってもらえるが、企業で売却する場合はその限りではなく、仲介料がかかったり、売却できない場合は協会買い取りになるため、企業指定の売却は基本しない者が多い。


 縁がある企業相手か相当その企業が好きでなければしない。


「俺は全部ばいきゃ――」

「待った!」


 全部売却と言おうとしたフェクトを慌てて止める。


「ブラッドムーンウルフからドロップした毛皮を売却するなんてもったいないですよ! 装備作成の依頼したほうが良いですって!」

「え? そうなんです?」


 きょとんとするフェクト。


「ダンジョン潜るなら装備もいいものにしなきゃ、です」

「うーんでも、作成してもらうっていいましても……」

「よくわからないのであれば靴と、余った分で作成できそうならバッグとかどうでしょうか」


 受付の女性が提案する。フェクトは頷いた。


「じゃ、それで」


 迷いもせず、フェクトは乗っかった。


「料金ですが、今回の魔石売却分を依頼費用にして余剰分を振り込みでどうでしょう」

「そ、それでお願いします」

「企業はご希望ございますか」

「特にな――」

「特にないならニーケを指定したほうがいいですよ。靴が強いメーカーさんですし」


 協会に任せてもいいが指定したほうが確実であるし、料金も安く済むときがある。だからバミィは口を挟んだ。


「えっと、じゃそれで」

「ではこちらの用紙の記入をあちらでお願いします」

「は、はい」


 申請書を受けとり、フェクトが離れる。


「……それでその、フェクトさんCランクなんですけど、Bランクに昇格ってできませんか?」

「あぁ、ブラッドムーンウルフ討伐分の功績でですね」


 配信を見ていたのか、すんなりと理解してもらえた。


「はい、討伐の証拠データもあります」

「でしたらこちらに送信お願いします」


 コードに繋がれた長方形の板のような機械がテーブルの上にのせられる。バミィはその上にスマートフォンをのせる。シーカー専用のアプリである「シーカーズ」のアプリが自動で開き、データの送受信用がページになった。ダンジョンの情報だけ得るのであればシーカーニュースだが、シーカーズのアプリは様々な手続きに対応している。シーカーズはメール機能もあり、シーカー専用のメールアドレスも登録できるので企業とのやり取りもこのアプリで出来る。


 バミィは該当の動画データを指定し、送信を選択した。


「協会の方で精査し、ご本人様に結果を通知いたします」

「よろしくお願いします」


 しばらくしてフェクトが戻ってくる。


「これでお願いします」

「承りました。ただいまバミィ様から昨日のダンジョン攻略の動画データを頂いたのでBランク昇格に関する結果報告と、装備作成に関するメールがシーカーズに届きますので一週間に一度はメールのチェックをお願いします」

「はい、わかりました」


 フェクトが頭を下げる。


「他に行いたい手続きがなければ以上になります」

「ないです」

「ボクもないです」

「それでは以上となります。またのお越しをお待ちしております」


 受付の女性が頭を下げる。

 二人で支部を後にした。







 駅の改札口前でフェクトと向かい合う。バミィはここが最寄り駅なため、電車に乗る必要はないが、フェクトは電車に乗って帰る。そのため、ここでお別れというわけだ。


「いやぁ、今日は何から何までありがとうございました」


 深々と頭を下げられる。

 バミィは両手を振った。


「いえいえ、命を助けて頂いたんで。こんなんじゃ足りないと思いますけど」

「そんなことないです。すごく助かりました!」

「なら……良かったです」


 会話がそれで終わる。数秒沈黙が流れて、フェクトはきょとんとした。


「帰らないんですか」

「え? あぁ、フェクトさんの電車まだ来ないですよね」

「十分くらいですし、気にせず帰ってください」


 にこやかにそう言うフェクト。バミィはうーん、と唸った。


「あの」

「はい?」

「図々しくなかったですか、ボク。そのYゼッターのフォローお願いしたりとか」


 吊り橋効果だろうか。フェクトには好かれたいし、もっと知りたいと、思ってしまう自分がいた。


 軽く気になる、程度ではあるが、それでもこの件だけで終わりにするのはもったいなくて、少し距離を縮めようとしすぎただろうかと心配になる。


 これが、まぁ、動画サイトのコラボ相手だったり、ファンだったり、仕事の相手だったら全く全然話が違うのだが。あるいは趣味が同じだったりとか。そういうのであれば話が違ったのだが。


 命を助けてもらった、本来全く縁のない相手との距離の縮め方はあまりわからなかった。


「むしろ俺なんかがフォローしてもらっちゃって嬉しいくらいです」


 嬉しいという言葉に胸が弾む。社交辞令的な意味合いでも十分だった。不安になりながら、一歩だけ距離を詰めてみる。


「フェクトさん」

「はい」

「敬語やめてもいいですか」

「へ? なんでです?」

「だってそのほうが話しやすいから。視聴者リスナー相手だと敬語じゃないので、疲れるんですよ? ほらまた同じダンジョン攻略するかもしれませんし、ね?」


 フェクトは少し考えた後、曖昧に頷く。


「ま、まぁ……お好きにどうぞ」

「フェクトさんも敬語やめていいんですからね」

「あぁ、はい」


 ちらりと時計を見る。あと少しで電車が来る頃合いだ。


「そろそろ時間だね」


 フェクトが後ろを向く。


「本当だ。それじゃ、本当に今日はありがとうございました」

「こちらこそ。気をつけてねー!」


 頭を下げられて、改札口を通って帰っていく。

 そのフェクトの背中が見えなくなるまで、バミィは見送った。


「……DMダイレクトメッセージで近況聞くくらいならいいよね」


 スマホを開き、Yゼッターを見る。

 Yゼッターは相互でフォローすると個人間でやりとりができる。メールも知らなければ本名もメッセージアプリのアカウントも知らないが、連絡手段はできた。


 あんまりひとりに入れ込みしすぎるのもよくない。フェクト自身の人柄がどうかもまだわからないが……昨日のダンジョン関連の話題なら不自然ではないだろうし、プライベートに踏み込まないだろう。


 歳も近そうだし、友達になれるといいな――そうバミィは思った。

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