待ち合わせ
コンビニの前で、待つ。普段着で背中のサックには魔石と素材を詰め込んでいた。
フェクトはスマートフォンで時間を確認する。約束の十五分前くらいだった。
暇潰しにYゼッターを開く。匿名性の高い
ダンジョンの情報に関してはシーカーニュースというシーカー協会がシーカーゲートを設置した瞬間にダンジョン情報を更新、通知してくれるアプリがあるためそれに頼っている。
Yゼッターではバミィの投稿が流れてきた。アイコンも昨日見たバミィが可愛らしく撮られている画像で、本人マークという企業や有名人のアカウントであることを証明するマークがついている。
『昨日は配信途中で切って申し訳ありませんでした。投稿できている通り、あの後助けてもらいました。ボクは無事だよ! 助けてくれたフェクトさんに感謝! 動画の許可はもらえたからそのうちアップするね!』
投稿には大きな反響があるようで大量の高評価「いいね」がついていたり、拡散するための「おすすめ」も多くあった。
投稿のアイコンを押す。
「うわスゴ」
Yゼッター内のフォロワーは三万人ほどいた。プロフィールにある動画サイトへのリンクをちょこっと開いてみるとフォロワーが五万人いる。
(こんな凄い人だったのかよ!)
驚きながらも縁はないだろうな。と思いつつ、フォローを押さずにホーム画面に戻ろうとする。
「あれ、フォローしてくれないんだ……」
少し残念そうな呟きにびくりと体が跳ね上がる。
「うわっ! バ、バミィさん! いたん……ですか」
隣を見るとバミィがいた。
その姿はダンジョンにいたときとは全く違う。ロゴのはいったベージュの帽子をかぶり、ダンジョンのときにかけていたデバイスは通常のメガネになっている。フレーム部分の細い、青系のメタリックカラーのスクエアタイプのメガネをかけていた。服装も桃色のTシャツの上から薄手の青いジャケットを羽織って、黒いスカートにブーツを履いているといった格好だ。
ダンジョンにいたときは目立たなかったが、バミィのスタイルの良さがいやでもわかる。
どうしても胸元のうさぎ型のネックレスに目が行きがちになってしまうのだ。
隣に女の子がいる、しかも自分と知り合い(?)というのもあって、フェクトはドキドキしてしまう。香水をつけているのかフルーティないい匂いまでしてしまっている。
(心頭滅却心頭滅却)
眉間にシワを刻み、必死に煩悩を払おうとする。
「……あっ。そういえばこれ、エコバッグです。ありがとうございました」
「はい、どういたしまして」
サックから畳まれたエコバッグを取り出し、バミィに渡す。バミィは肩に下げているショルダーバッグの外ポケットに入れた。そして頬をふくらませる。
「で、フォローしてくれないんです?」
「え……」
スマートフォンの画面を見る。Yゼッターの画面はバミィのプロフィール画面で止まっていた。
「いやぁ、フォロワー数多いし、縁遠いかなって」
「命を助けてもらいましたし、ボクはフェクトさんに興味あります! 嫌じゃなかったら、フォローしてくれません? するだけでいいので」
上目遣いに言われる。
女性という存在そのものがキラキラしすぎて縁が無いように思えるのに、アイドルみたいな容姿のバミィに言われると破壊力が凄かった。
「じゃ、じゃあフォローだけ」
「やった……!」
胸の前で小さく拳を握りしめるバミィ。
非モテ男のフェクトには刺激が強すぎる。そっと目をそらした。
「フォロー返ししても?」
「つまらない投稿しかしてないので」
「やましいものとか、ないんですか?」
フフフとからかうように問われる。あまり記憶はない。
「いやないですが」
「ま、ボク千人くらいフォローしてるので投稿大量に流れてきますからあんまりフェクトさんの投稿見れないと思います。というわけで、えいっ!」
すっとスマホを出したバミィは画面を押す。フェクトのスマホの通知に「バミィからフォローされました」というメッセージが表示される。
「ほ、本物」
「へへっ、本物ですよー」
なんだか目の前に凄い人がいて会話できている、というだけで夢のようだった。
「コンビニで飲み物とか買っていいですか?」
「どうぞどうぞ。ついでに俺も買います」
「じゃあその後一緒に支部行きましょう」
ニカッと笑うバミィ。
フェクトにとってバミィの全部が眩しかった。
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