ダンジョン攻略完了
広い部屋の奥。ボスが守っていた先に青い炎の壁で阻まれていた小部屋がある。ボスを倒せば炎が消え、核魔石があるその小部屋に入れるのだ。
「あの、フェクトさん」
「なんですか」
「今回の戦闘、実は途中まで配信してまして」
腰にハンマーを下げ、近くにスマートフォンを追従させた状態のバミィが申し訳無さそうに言う。
「あぁ、ダンジョン配信者の方でしたか」
「配信してるとこ、言えればよかったんですけど」
「非常事態でしたし仕方ないですよ」
誰もCランクダンジョンでB+だなんて化け物ボスが出るとは思わないだろう。バミィのBランクの実力を考えればサクッと終わるダンジョンだ。
「アーカイブは削除する予定なんですけど……その良ければ動画上げさせてほしいかなって思いまして。顔出し嫌ならモザイクかけるし、そのB+モンスターとの戦闘なんて滅多に撮れるものじゃないので」
両手を合わせながら言われる。
ダンジョン配信は配信者や配信者の所属事務所の収入源や宣伝になる効果もあるが、ダンジョンそのものの危険性やモンスターの特徴の情報をリアルに伝えられる。初心者シーカーの貴重な映像資料にもなり得るのだ。
フェクト自身もダンジョン配信のアーカイブやダンジョン攻略動画などの映像資料でいろいろ勉強させてもらった。
エフェクトのスキルのシーカーの戦闘なんてあまり興味はないかもしれないが、ブラッドムーンウルフの資料にはなるだろう。
「いいですよ」
「本当ですか、ありがとうございます! 絶対バズります」
ぱっと表情を輝かせるバミィ。
正直今は何でも許してしまえそうだった。
小部屋の中心、核魔石の前に立つ。通常の魔石と違って赤い。大きさとしてはこぶし大の核が空中に浮かんでいる感じである。
バミィは腰のハンマーを引き出す。
「破壊しますね」
「お願いします」
バミィは革袋を取り出すと、核魔石を袋の中に入れる。そしてハンマーを振り上げて、核魔石に叩きつける。砕け散った音共にダンジョンの壁が剥がれ始めた。
核魔石はダンジョン攻略の証となる。通常の魔石と違って力を失ってゴミ同然になってしまうので一欠片でも拾っていればいいのだが、間違いがないように袋に収めてから破壊するものもいる。
ダンジョンの壁が完全に消え去るとコンビニの外だった。
コンビニの入口前では円柱の機械が二つ並んでおり、入口を塞いでいる。
シーカーゲートと呼ばれるものだ。二つセットで
バミィはシーカーゲートの頭部分の丸い蓋を回して外し、中に核魔石の欠片を全て入れる。
『スキャン――Cランクダンジョン攻略完了を確認。シーカー情報を読み込ませて送信してください』
シーカーゲートから数字を入力するためのキーボードが出現する。
「攻略人数を入力してください」
バミィが「2」と入力する。
『シーカーカードを読み取ってください』
バミィはシーカーカードを取り出し、カードリーダに読み込ませる。
『――Bランクシーカーバミィ様』
「ほら、フェクトさんも」
「あ、はい」
フェクトは毛皮と魔石を地面に置く。そしてカードを取り出した。
「もしかしてエコバッグ的なものもない感じですか」
「ないですね」
「不意に大きめの魔石とか出ても持ち帰れるようなバッグか、非常用のエコバッグ持っておいたほうがいいですよ」
「ははは、次からはそうします」
バミィはリュックから素早く畳まれたエコバッグを取り出し、魔石と毛皮を入れる。ヘッドフォンをしたウサギのイラストがある可愛いものだった。
「貸してあげます」
「ありがとうございます」
エコバッグを肩に下げ、カードを読み取らせる。
『――Cランク冒険者フェクト様。以上でよろしいでしょうか』
バミィは「OK」のキーを押す。
『本部にデータを送信しました。続いてダンジョン探索者の登録をお願いします』
周りを見るが、誰もいない。ダンジョン攻略後は必ずダンジョンの入口前に強制的に移動させられる。いないということは今回攻略をしていたのは二人だけというわけになる。
バミィは「0」とキーを叩く。
『ご協力ありがとうございます。シールドを解除します。ダンジョン攻略、ありがとうございました』
シーカーゲートが壁を解除し、円柱が縮こまる。しばらくすればシーカー協会の者が回収に来るだろう。
「このダンジョンに来たってことはフェクトさんはここらへんに住んでるんです?」
「まぁ、一駅隣のところです」
「じゃあ、明日ここでまた会えたりしますか」
「……へ?」
思わぬ誘いに戸惑う。
「そりゃ、その、大丈夫です」
「良かった。それじゃあ明日、シーカー協会の支部に魔石を換金しにいきましょう。素材は装備に加工してもらうにしろ、B+のモンスターの素材ですから、フェクトさんだけだと疑われるかもしれません。動画でしっかり映像証拠も残してありますし、ボクも証言するので、Bランク昇格の話が出るかもしれませんよ」
そういって軽くウインクするバミィ。しぐさのひとつひとつにどぎまぎしてしまう。
「ランクが上がるのはいいですね! ぜひお願いします」
「じゃ、朝の十時頃にここで会いましょう。エコバッグはそのとき返してください」
「はい! お願いします!」
フェクトは強く頷いた。
こんな可愛い子とまた会えるなんてラッキーだ。
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