強さが追いついてない

 振り下ろしの一撃をフェクトは避ける。フェクトの動体視力はブラッドムーンウルフの動きを完全に捉えており、避けることは難しくはなかった。


「喰らえ!」


 右拳に稲妻をバチバチと言わせながら殴る。無論スキル「エフェクト」で発生している稲妻なので攻撃力は何も強化されていない。


 だがその拳はブラッドムーンウルフの顎を殴り飛ばした。


 ブラッドムーンウルフはバランスを崩して倒れるが、すぐに体を転がして体制を立て直す。


 フェクトは拳を握ったり開いたりしながら強く頷いた。


 ──行ける。


 ブラッドムーンウルフは咆哮を上げながら体の周囲に三日月型の刃を形成するとフェクトに飛ばしてきた。名前の由来となっている、特殊な攻撃だ。


 フェクトはブラッドムーンウルフ目掛けて走った。姿勢を深く落とし、ダッシュする。雷鳴を響かせ、走った後を稲妻が追従した。


 そして、ブラッドムーンウルフが飛ばす刃は追従する稲妻を攻撃するだけ……つまり空を切るだけでフェクトには届かない。


 単純にフェクトの速度が速いと言うのもあるが、体に稲妻のエフェクトを纏っているので一瞬、追従する稲妻エフェクトのみの空間も「フェクト」として勘違いしてしまう。無意識に一瞬、騙す程度だが、それでも攻撃は一瞬一瞬の判断で行われている。騙し技には十分だった。


「オラァ!」


 そして勢いに任せて鼻先をぶん殴る。殴った瞬間、より派手な雷エフェクトを爆発したように発生させた。


 ブラッドムーンウルフとは思えない鳴き声がダンジョンに響いた。






 ──十二歳の頃、中学校でスキル判定を受けたとき、フェクトは深く落ち込んだ。


 幼い頃からテレビで見るヒーローに憧れ、モンスターに挑むシーカーに憧れ、強いスキルがほしいと思っていたからだ。家族からは俳優などの職に就きやすいことを喜んでもらえたが、フェクト自身には正直──外れでしかなかったのだ。


 しかし、漫画を読んでいたとき、最上位のど派手な攻撃を最下位のショボい攻撃で打ち消すキャラクターを見て衝撃を受けた。派手な攻撃をショボい攻撃で打ち消す展開。十二歳のフェクトに電流走る。


 外に出て拳に火のエフェクトを発生させて殴る。もちろん木は折れない、燃えない。


 しかし、拳で木をへし折れれば、このエフェクトはこの上なくカッコイイだろう。


 エフェクトが弱いのではない。エフェクトの演出に、フェクトの強さが追いついていないのだ。


 その思考は紛れもなく子どもながらの現実逃避だった。


 断言できるのは外れスキルで諦められるほどフェクトはお利口ではなく、そして馬鹿だったのだカッコイイからいいじゃん







 バミィは唖然としていた。


「あれ、エフェクトだよね……?」


 バチバチと稲光を走らせながらブラッドムーンウルフを殴るフェクト。その姿にただただ唖然とするしかなかった。


 こけおどししかならないであろうエフェクトが、まるで本当に強化されていると錯覚するような威力の拳として放たれる。


「ボクより、強い……」


 スキルを加味せず身体能力だけ。それだけでスキルを使用したバミィよりも強い。Cランクとは思えない強さだった。


 コメントは大盛り上がりで視聴者が爆速で増えている。


「……あっ、ちょっと待った! 配信切るね!」


 バミィは大慌てで空中のスマホを掴むと操作を始める。


 コメントは非難轟々だったが、無許可で配信を続けるわけにもいかない。先程までは三人寄れば文殊の知恵と思い、コメントのアドバイスを参考に打開策を考えようとは思っていたが、フェクトが突っ込んでいき、しかも光明が見えてきているのなら続ける意味は薄い。


「アーカイブも削除するかも! ごめんね! フェクトさんから許可貰えたら動画にするから! バイバーイ!」


 配信を急いで切って録画を開始し、ドローン機能で浮かばせる。


 バズり……再生数爆上がりのきっかけにはなりそうなので動画には残しておく。というより助けに行くタイミングがわからない。


 現状は戦闘の邪魔になりそうだった。


 加えて至極単純に、バミィは戦うフェクトの姿に、正直見惚れていた。







 本を読み漁った。効率的な筋トレを行い、格闘技を独学でアレンジし、あらゆる動物の急所を知り、視覚的効果を勉強し、とにかくひたすらにエフェクトにふさわしい強さを再現するために時間を費やした。大手配信者のダンジョン攻略を見て、架空の敵相手に戦ってみたり……とにかくいろんなことをした。


 その努力の結果が今の自分だ。


「うぉおおお!」


 攻撃を避ける。

 今までモンスターに苦戦した記憶はなかったが、このB+モンスターであるブラッドムーンウルフは中々な強さを感じていた。


 シーカーになって二ヶ月。ダンジョンを肌で感じ、エフェクトにふさわしい強さの攻撃でモンスターワンパンし続けた。


 正直に言う。


 楽しかった。自分の強さが通用することが。自分の考えが通じることが。


 どこまで行けるのか、どこかで通じるか。


 それが気になって思い切って挑んで見たが、中々に面白い。


 リストバンドを外して戦うのは初めてで、体が軽く感じるのもある。


 もっといろいろ試してみたいが、あまり冒険しすぎるのもいけないし、今回は女の子バミィもいる。視線を動かし、床に置かれたハンマーを見る。


 そろそろ、終わらせるか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る