四話 午後の微睡みと膝枕


(午後のリビング)


(昼食を終えた二人がソファでくつろいでいる)



「うーん、満腹満腹」



「彼氏くんの作ってくれるご飯はやっぱりおいしいね。大葉とツナのパスタって初めて食べたよ」



「今度、あたしも作ってみようかな。レシピ教えてよ」



「ふむふむ。へえ、結構簡単なんだね」




(相変わらず降り止まない雨)



(気を緩めていると、あなたの口から欠伸あくびが出る)




「あれ? 彼氏くんが欠伸なんて珍しいね」



「午前中、あれだけたっぷり寝たのに」//微笑しながら



「でも仕方ないか。お昼ご飯を食べた後は眠くなりがちだし」



「最近、忙しかったもんね。彼氏くん」//優しい声音で



「……あっ、そうだ!」//妙案みょうあんを思い付いたという感じで



「いい案が浮かんじゃった。彼氏くん、ちょっと待ってて」



「そう、いいこと。彼氏くんの疲れを癒やして」



「あたしも役得な、ね?」//悪戯に




//次の場面へ




「おまたせー。それじゃあ彼氏くん、どうぞ」



(耳かき棒を持った彼女が自分の膝を叩く)



「何って。膝枕だよ、膝枕」



「さっきは、あたしが彼氏くんから充電したから」



「今度は逆に彼氏くんが膝枕で充電する番」



「癒やし効果で日頃の疲れが吹き飛ぶ、かも?」



「あと、ついでに耳かきもしようかなって。最近やってなかったし」



「ほら、照れてないで早く」//膝を叩く音



(彼女の膝の上に頭をのせる)



「ううん、大丈夫。重くないよ」



「それじゃあ左耳から始めるね」



(彼女が耳かきを始める)



「あっ、やっぱりたまっている」



「これは掃除のしがいがありそうだね」



「どうかな? 痛くない?」



「そう、良かった。じゃあ続けるね」



(耳かきの音。彼女が鼻歌を口ずさむ)



「え? 何だか楽しそう?」



「実際、楽しいからねえ。言ったでしょ、あたしも役得だって」



「一見、何でもないことだけど」



「好きな人を膝の上にのせて耳かきをするって特別な時間なんだよ?」//囁くように



「ほーら動かない。終わるまでじっとしててね」



「……はい、左耳終わり。次は右耳ね」



(あなたが身体を動かして反対側を向く)



(彼女のお腹に顔が当たりそうになる)



「ふふっ、もうちょっとくっついてもいいんだよ?」



「何なら匂いを嗅いでも、ね?」//悪戯げに



「まあ、うちで使っている柔軟剤の匂いしかしないと思うけど」//微笑しながら



「それじゃあ始めるよ」



(耳かきの音)



「……綺麗な耳の形しているよね、彼氏くん」



「うん、そうだよ。少なくともあたしは好き」



「自分の耳があまり好きじゃないから特にそう思うのかも」



「……もう! だから不意打ちはやめてよね」



「先に好きって言ったのはそっち、って。本当もう」//仕方ないなという感じで



「うーん。でも、あたしみたいにピアスを開けるのはオススメしないよ?」



「色々と大変だし下手したら化膿もするから」



「……まあ、彼氏くんとお揃いというのは捨てがたいけど。やっぱりダメ」



「あたしの場合は、そうだね」



「決心の証として開けたんだ。実家を出た時に」




//次の場面へ




「はい、これで耳かき終わり。ちゃんと綺麗になったよ」



「あっ、膝枕はまだ継続ね。充電が百パーセントになるまで離れるの禁止」



「大丈夫だよ、足は痺れたりしてないから。存分に癒やされてください」




(変わらず激しい雨音)



(しばらく静かな時間が流れる)




「…………彼氏くんはさ」//呟くように



「いつも、あたしを褒めてくれるよね。何気ないことでも、すぐに」



「思ったことを言っているだけ、か。本当そういうとこだよ、もう」



「だから、あたしは君を好きになっちゃった」//微笑しながら



「……薄々、気づいていたと思うけどさ」



「あたし、実家に居場所がなかったんだ」



「両親が厳格な人でね。二人とも優秀だから子供へ求めるものも大きかったんだ」



「文武両道なお兄ちゃんやお姉ちゃんはその期待に応えていたけど」



「あたしは全然でね。努力しても平均の域から飛び出すことができなかった」



「当然、褒められることはなくて叱られてばっかり」



「その反動で、学校だと過度に明るく振る舞ったりしたけど」



「段々と周囲の求める自分に抵抗感が出てきて上手くいかなかった」



「一時期は自分で自分を追い詰めたりもしていた」



「うん、その辺は折り合いを付けることが出来たよ。今の仕事に繋がる出会いもあって」



「それに」




「今は隣に彼氏くんがいるから」




「君の存在に、あたしはかなり救われているんだよ?」



「落ち込んでいる時には違う視点を与えてくれて」



「ちょっとしたことでもすぐに褒めてくれる」



「何よりも」



「あたしのことを真っ直ぐに受け止めてくれる」



「そんな君が、大好きです」//照れくさそうに



「なんだか告白の言葉みたいになっちゃった。ある意味、告白ではあるけどね」



「だからこそね、怖いんだ。君に依存しすぎてしまうのが」



「自制はしているつもりだけど、ついつい抑えきれなくなりそうで」



「それでもいいって。でも!」



「……えっ?」



「ちょ、ちょっと待って! 心の準備というかその」



「ああ、もう! わかった、わかったから!」



「彼氏くんも、あたしのこと大好きなのはわかったからストップ!!」



「本当に、君はもう……。真剣に悩んでいたのが馬鹿らしく思えてきたよ」



「……でも、お互いの重さが釣り合っているなら」



「これから先も大丈夫、かもね」



「さて、真剣な話はここまで。後もうしばらく、彼氏くんは充電ね」



「膝枕、ちゃんと堪能してね?」//囁くように

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る