三話 小さな幸せとレースゲーム


(掃除機をかける音)


(それが止まった頃に、あなたが扉を開き入ってくる)



「あっ、彼氏くん。トイレ掃除、終わった?」



「そっか、ありがとう!」



「こういう時じゃないと丁寧に掃除できないからね。助かったよ」



「うん、こっちの方も終わったから一息つこう」



「お茶でも淹れるね。ソファに座って待ってて」




//次の場面へ




(お茶を飲みながらソファでくつろぐ二人)



(外は相変わらずの土砂降り)



「天気予報通り、今日は一日中雨みたいだね」



「さっきはがっかりしたけど、冷静に考えれば休日で逆に良かったかも」



「この雨だと傘を差してもれちゃいそうだからね」



「不幸中の幸い、はちょっと違うか」//苦笑しながら



「それで彼氏くん」



「家でゆっくり過ごすとは決めたけど何をしようか?」//甘える感じで



(あなたにもれたかかる彼女)



「家事や仕事関係の勉強だけというのも味気ないし」



「ぼーっとテレビや動画を眺める、というのも面白くないよね」



「せっかくなら二人で遊べるようなことがしたいけど」



「といっても家の中だと何が出来るかな?」



「……ゲーム?」



「うーん、あんまりやったことないかな。……実家にゲーム機がなかったから」//後半ちょっとトーン低く



「有名な作品なら友達の家でプレイしたことはあるよ」



「色々なキャラクターが大乱闘するアクションゲームとか」



「ミニゲームいっぱいの双六すごろくみたいなゲームとか。あとはー」//考えている感じで



「そうそう! カートでレースするゲーム!」



「彼氏くん、そういえばこのゲーム持ってたね」



「たまに遊んでたの、すっかり忘れてたよ」



「うん、友達の家で結構遊んだから大丈夫。これなら、あたしでも遊べるよ」



「なんなら彼氏くんにも勝っちゃうかもね?」//ちょっと得意げに



「じゃあ、お茶を飲み終わったら遊ぼっか!」




//次の場面へ




(レームゲームのBGMが流れる)



(絶好調なあなたと対照的にうなだれる彼女)



「ぜ、全然勝てない……」



「彼氏くん、このゲーム得意過ぎない!? そんなにやりこんでたっけ!?」



「学生の頃に散々やり込んだ、って。聞いてないよ、もう……」//ちょっと拗ねた感じで



「うー、何かハンデとかちょうだい。でないと勝てる気がしないよ」



「そうだね、例えば」



(あなたの膝の上に彼女が座る)



「こんなのは?」//悪戯っぽく



「私の頭で視界妨害。ゲームの妨害アイテムでもあるよね、こういうの」



「それくらいならオッケー? よし、じゃあレースを始めようか」



「次こそ勝ってみせるよ!」




(ゲームのBGMとカートの走る音)



(相変わらず絶好調なあなたと苦戦する彼女)




「あっ! またアイテムが外れた!?」



「というか彼氏くん。視界妨害しているのに操作キレッキレ過ぎない!?」



「コーナリングとかやたらと上手いし。妨害アイテムにも全く引っ掛からないし」



「経験と勘、って。年季の入り方が違い過ぎる……」



「こうなったら」



(彼女があなたの耳に息を吹きかける)



「ふふっ、これぞ奥の手」



「いくら彼氏くんでも、これをやられたら」



(今度は逆にあなたが彼女の耳に息を吹きかける)



「ひゃっ!?」



「か、彼氏くん!? やり返すのは反則じゃないかな!?」



「耳には耳を、って。ハンムラビ法典じゃないんだからさ!?」



「って、そんなこと言っている間にゴールされた!?」



(鳴り響くファンファーレ)



「もう、強すぎるよ。彼氏くん……」



「ううん、このゲームでいいよ。むしろ闘志が湧いてきたから」



「一回くらいは彼氏くんに勝ってみせるよ!」



「でも、その前に」



(膝の上に乗ったまま、彼女があなたに抱き着く)



「ちょっと充電。動かないでね」




(雨音と彼女の吐息だけが聞こえる)




「……なんだか、いいね。こういう時間」



「彼氏くんと一緒にゲームして。じゃれついて、イチャついて」



「傍から見れば本当に何でもない時間なんだろうけど」



「とても、幸せだなって」



「…………うん、そうだね」



(あなたの膝の上から彼女が立ち上がる)



「よし、勝てそうな気がしてきた! 充電したし今度はハンデなしでいくよ」



「それじゃあ、次のレース。いってみよう!」

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