二話 目覚めのコーヒーとパンケーキ



(パンケーキが焼ける音と薬缶やかんでお湯を沸かす音)



(目が覚めたあなたは、隣に彼女がいないことに気づきリビングへ)



「あっ、おはよう。彼氏くん」



「先に目が覚めたから朝食の用意、してたんだ」



「そう、パンケーキ。うちのお店仕込みのレシピでね」



「じっくり弱火で焼くのがポイントなんだ」



「コーヒー、飲むよね? 今れるからちょっと待ってて」



(ドリッパーにフィルターをセットして、挽いて粉にしたコーヒー豆を入れる)



「『の』の字を書くように全体を湿らせる、と」



(ドリップポットでコーヒー豆に優しくお湯を注ぐ)



「……彼氏くん? どうしたの、そんなまじまじと見て」



「前より手慣れている感じがする?」



「そうかな? あたし的にはまだまだ未熟だと思ってたけど」



「お店で練習させてもらっているから。その成果かもね」



「……だったら嬉しいかな」//微笑んでいる感じで



(再びお湯を注ぐ)



「うん、そうそう。最初にお湯を注いだ後はらすのがポイントなんだ」



「これだけで結構違うんだよ? 蒸らさないと味にムラが出ちゃうから」



「他にもポイントは色々あるけどね」



「温度を下げないように、カップや器具を事前に温めたり」



「味を均一にするために、カップへ注ぐ前にスプーンでかき混ぜるとか」



「ちょっとしたことの積み重ねで、びっくりするほど結果が違うんだよ?」//お湯を注ぎながら



「……って、ごめん。ちょっと語り過ぎちゃった」



「急に長々と話されても困るよね」



「え? よく勉強している証拠?」



「……もう! 褒めてもコーヒーしか出ないよ?」//微笑しながら



「彼氏くんは、そういうところがあるから油断が出来ないんだよねー」



「すぐに、あたしを褒めようとするところ。嬉しいけど、くすぐったくなっちゃう」



「どうしてって? それは……」



(思案する様子の彼女。しかし別のことに気づく)



「……あっ! パンケーキ、そろそろひっくり返さないと!」//慌てた様子で



(パンケーキを裏返す音)



「よし、これでオッケーと」



「慌ただしくてごめんね。残りのコーヒー淹れるから」



「え? さっき、言おうとしたこと?」



「ああ、単純な話でね」



(お湯を注ぐ)



「慣れてないんだ、誰かに褒められるの」//苦笑しながら




//次の場面へ




「お待たせしました、ベーシックパンケーキです」//かしこまった感じで



(彼女が食卓にパンケーキが盛られた皿を二つ置く)



「なーんてね。ここまでお店と一緒にしなくていいか」



「えっ? 出会った頃みたいで懐かしい?」



「……そうだね。あの頃は、ただの店員とお客さんだったもんね」



「まさか恋人関係になるなんて。当時のあたしに言っても信じないかも」//微笑して



「さて、昔話はこの辺りにして」




(二人分の手を合わせる音)




「いただきます」



(あなたが、フォークとナイフでパンケーキを切り分けて口に運ぼうとする)



「はい、あーん」



(すると、彼女が先に口元に差し出してきた)



「びっくりした? なら、作戦成功かな」



「いつものお返し。たまには、わたしが彼氏くんをドキッとさせたくて」



「ほら、あーん」



(差し出されたパンケーキを口にする)



「どう? おいしい?」



「……そっか! じゃあ、あたしも」



「うん、成功かな。おいしい!」



「レシピ通りには作ったけど彼氏くんの反応を見るまで不安だったんだ」



「ちなみにコーヒーとの相性はどう? 中煎りの豆を使ったけど」



「バランスが丁度いい、か。……うん、確かに」//途中、コーヒーを飲んで



「苦さと甘みの調和が取れているし、バターの風味も引き立っている」



「そう、フードペアリング。最近ちょっと勉強しているんだ」



「深煎りのコーヒーにはこってりしたお菓子が合うとか、あえてコーヒーと食べ物の酸味を合わせるとか」



「学ぶと結構奥深いんだよ。……ああ、でも」



「彼氏くん相手だと釈迦しゃか説法せっぽうだったかな? 料理やお酒に詳しいし」



「コーヒーには詳しくないから興味がある? そっか、なら良かった」



「うん、後で詳しく話すね。あたしも勉強中だからまだまだだけど」



「それじゃあ、おいしい内に食べちゃおっか!」//微笑しながら

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る