🔮小話1・ラフレシア・ 妍子・イザベルの戦い(後編)

 ラフレシア・ 妍子きよこ・イザベルは自信満々であった。しかしながら意外にも殴りあいは長引き、決め手に悩んだ彼女は、「そうだ! こんなときには、! 宣伝! おい! わたしが強烈な勢いで勝利したって国中外に広めろ! これで決まりだ! ふはっ! ふははっ!」なんて言って、通信速度の遅い時代であったため、せっかくのこの機会に侵略を……なんて考えていた他国は、「もう決着ついたってさ……残念……」と言いながら手を引いていた。さすが、元・道長の娘、最終的には、堂々のKo勝ちだった。そして再びフアナとの会談が持たれていた。


 フアナも彼女なりに精一杯がんばって、親戚のポルトガル王・アフォンソ五世と結婚し、なんとか彼に助けてもらおうとしたが、そこはもちろん抜かりなく、ラフレシア・ 妍子きよこ・イザベルはとっくに、ローマ教皇に手を回し、「その結婚は、近親婚(血が近すぎる)なので無効です」との返事を取りつけていたのである。


「フアナどうするよっ!? だれがこの国で一番偉いか、も一回わたしの目を見て、ビシッと言ってみな!? 返答しだいでは、ボコボコのボッコボコにするからなっ! なんなら異端審問にかけてもいいんだぜっ!?」


 ラフレシア・ 妍子きよこ・イザベルは、バールのような物……ではなく、ギラギラの王笏を振り回しながら玉座にふんぞり返り、貴族たちが見守る中、おびえるフアナを、これでとどめだと言わんばかりに、宮殿中に響き渡るような大声で、怒鳴りつけていた。


「~~~~一番偉いのはイザベルさまです。ごめんなさぃ……」

「聞こえない! もう一回っ!」

 

 臣下たちは、「これは、迫力が違う……」「フアナさまでは、太刀打ちできんな……」そうささやいていた。圧勝である。そうしてフアナは、すぐさま修道院に叩き込まれていた。


「ううぅ……わたしが、わたしが、女王だったのに……」フアナは、ずっと修道院で、わたしが女王、わたしが女王と、あちらこちらに書き殴っていたという……。


 そんなこんなで、ラフレシア・ 妍子きよこ・イザベルは、『イザベル一世』として、カスティーリャ女王になり、この争いに大いに助けになった夫であり、アラゴン王太子でもあるフェルナンド五世、のちには、アラゴン王・フェルナンド二世に繰り上がった男と結婚していたので、最終的にはスペインの統一に成功し、夫と共に、カトリック両王と呼ばれるようになった。


 なお、結婚前に、「あの、お相手には、もう愛人や庶子がいるとか、いないとか……」なんて話を聞いていたが、ラフレシア・ 妍子きよこ・イザベル、元は平安の女、まったく気にしなかった。


「そんなの関係ね――よ! は問題なし! それよりも、とらなきゃな! 実力と家柄に文句なし! なら問題なし!」

「はぁ……」


 ラフレシア・ 妍子きよこ・イザベルは、すがすがしいまでに思い切りよく、そう言い切って、政略結婚をしていたのである。


「ふはっ! ふははっ! ! わたしが! すへてが、わたしのために存在する。これが! 素晴らしい! 超楽しい! レコンキスタ! ゆけっ! コロンブス! 頑張れ夫! 援護は任せろ!」


 城下には、超高価な真珠のネックレスを、首になん重もぐるぐる巻いて、宝石があしらわれた金のでっかい飾りボタンをなん個もつけた、ド派手なギラギラのドレスの、美貌のラフレシア・ 妍子きよこ・イザベル、イザベル一世こと、女王ラフレシアの変な高笑いが、毎日、響き渡っていたという。


「妻のイザベル一世ってさ、女関係にもうるさいこと言わないし、元気なのはいいけれど、あの変な笑い声がうるさいんだよな……いつかどこかで聞いたような……気のせいかな……」


 ラフレシアの盛大な応援を受けて、いくさに向かうとき、夫のフェルナンド二世は、そんな風にぼやいていたらしい。彼に記憶はなかったが、彼の前世はこと、敦明親王あつあきらしんのうだった。因縁、いやえにしである。


 ときは1474年、まあとにかく、スペイン黄金時代の幕開けであった。


「ふはっ! ふははっ!」


【了】

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