小話その他

🔮小話1・ラフレシア・ 妍子・イザベルの戦い(前編)

〈 少し長い小話、ラフレシア・ 妍子きよこ・イザベルの戦い in カスティーリャ・前編〉


 変な鳴き声のギラギラした目を持つ時鳥ホトトギスは、気がつくと見たこともない国の違う時代っぽい、壊れかけの城の中で人になって震えていた。


「どこだここ!?」


 中途半端に生まれ変わった彼女は、その時代、スペインの一画にある国の、カスティーリャ=レオン王国の王ホアン二世の娘、イザベルとして、二番目の妻、イサベル・デ・ポルトガル(名前が重複)から産まれていた……らしい。さっき元の娘の魂とやらが入れ替わりながら、素早く説明して消えていた。


「ふ――ん、妻はひとりだけなんだ……なかなか慎ましいな……」


 ラフレシア・ 妍子きよこ・イザベルは、そんなところに変に感心していたが、自分の置かれた状況は、とんでもなかったのである。

 彼女は、異母兄のエンリケ四世により、母と弟のアルフォンソと一緒に島流し……そんな風に、ここへ送られていたのだ。母だという女は、もうすでに心を病んでいた。


「これは駄目だ……このままでは野垂れ死に……内親王というか、この国のてっぺん、王の姫なのに、つぎはぎドレスのボロボロ姿……生きているのが不思議なくらい貧相な食事……取り柄は美貌くらいしか……お腹空いた……」


『くそ――こんなところで、くたばってたまるか! わたしはあの黒い太陽、道長の娘! 今度こそ! そうだっ! 呪詛! 取りあえず呪詛だっ! エンリケに子が産まれませんようにっ! そうすれば、この弟? アルフォンソを利用して返り咲きっ!』


 ラフレシア・ 妍子きよこ・イザベルは、見よう見まねのうろ覚えではあるが、ちょくちょく道長のお呼びで、やかたにやってきていた『安倍晴明あべのはるあき』がおこなっていたかなり本格的な呪詛を、毎日毎日繰り返していたが、周囲は平安の呪詛なんてもちろん知らないので、「もの凄い迫力で、人形と遊んでいるな……」そんな風に思っていた。


 それからの彼女は、エンリケ四世から執拗な命に関わる嫌がらせを、父の道長のアレコレを思い出し、必死で回避して生き延びながら陰で糸を引き、黒い策略と行動を駆使して、なんとか壊れかけの城から、待遇改善に成功していた。


 ラフレシア・ 妍子きよこ・イザベルは、こんなもんで満足いく訳がないだろうと、それからも手を緩めずに暗躍し、カスティーリャ王国を大混乱に持ち込む。


 結果論ではあるが、ラフレシアの陰謀は成功する。異母兄のエンリケ四世に男子は産まれなかったし、ラフレシア・ 妍子きよこ・イザベルの仕掛けで、彼の娘で、もともと「あの子ってさ、本当にエンリケ四世の娘?」なんて言われていたフアナ・ラ・ベルトラネーハは、真っ黒な父親詐称疑惑が持たれていた。

 ラフレシア・ 妍子きよこ・イザベルは、弟のアルフォンソに毎晩言い聞かせる。


「いい? あんたは、わたしの言うことを、そのまま言ってればいいからね……王に、この国のにしてあげるからね……」

「う、うん……(とても言えないけど、てっぺんじゃなくてもいいから静かに穏やかに暮らしたい……)」


 姉の大迫力に押されて、病弱であった弟のアルフォンソは、「えっと、その……」ちらっ! なんていう感じに育っていた。「あれは、姉の言いなりだな……」そんな風ではあったが計画は着々と進み、ラフレシア・ 妍子きよこは、なんとか国を取れると思っていた。そんな内乱の最中にアルフォンソは若くして病死してしまう。


「うえっ! いままでの苦労が……え? なに? 男子がいなければ、女子でもにいける? 女王だと? ふはっ! ふははっ! それは素敵っ! それ採用!」


 すったもんだの末に、ラフレシア・ 妍子きよこ・イザベルは王太子となり、彼女をなんとか始末しようと、裏で散々な攻撃を仕掛けてきたエンリケ四世は、とうとうしていた。


 彼は、例の疑惑の娘、フアナ・ラ・ベルトラネーハに、本当は跡を継がせたかったのだが、いかんせんラフレシアは、元はあのの娘の中でも一番、父親に似た気性をむき出しにした荒くれ者。迫力が違う。それでもフアナはなんとか口を開く。


「わ、わたくしが本当の本当に女王……けいしょう……けんり……どっかにいけ、このロクデナシ……」

「あ!? なに? いま、なんて言った!? のわたしに、なんつったっ!? ええっ!? このごときがっ!」

「ぎ、ぎわくじゃない……せいとう……ひっ!」


 フアナは、ぎらついた目つきのラフレシア・ 妍子きよこ・イザベルの凄みに、腰が抜けそうであったが、とにかくふたりは、国中の貴族や他国を巻き込んで戦うことになった。


 腰の引けたフアナと、こぶしを高々と振り上げ気合の入ったラフレシアは、殴り合いのリングに上がり、あちらこちらを巻き込んで、なんでもありの泥仕合(内乱)がしばらく続く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る