🔮パープル式部一代記・第六十四話
そして翌朝のことである。
道長が、紫式部が貫徹突貫で仕上げた「改稿済みの物語」を手に帝のもとを訪れ、しみじみとした様子で、ようやく墨の乾いた紙の束に目を落としてネタバレしていたのは。
「先程、物語の続きを受け取ったばかりなのですが実に残念ですね……帝のお気に入り、明石の君がまさかの入水で儚くなるとは……」
「ええっ!?」
「いやいや、まだ、熟考してはいるらしいのですが、なにせ物語……なりゆきが分からぬ以上は口は挟めませんからねぇ……」
「いや、まだ考えているならば……いまからでも朕が藤……じゃなかった。紫式部を呼んで……えっと紫式部……本当はあだ名で官位なしの無印だから、正式に五位の地位をあげてもいいし……」
そう、紫式部の式部は、
そんな風にあせっている帝に、道長は久しぶりに帝も恐怖する「黒く輝く笑顔」を見せていた。
「まあ、紫式部の官位なんてしょうもない話はまた今度……。そういえば身罷った
「えっ!? あっ! いやその……
変な汗をだらだら流している帝の耳元に、「恐怖の大王」そんな低い声が響く。
「まあでも……うちの
「う……」
「あと、女院さまの置き土産、さかさものがたり、ご用意できますよ? うちの
「ううう……」
帝は、
慣例から考えても、常識的に考えても、
しかし、それがなぜ発覚した!?
『あのさ特別講師を呼べばいいと思うよ』
知っているようで、まったく知らない女の言葉が運命の歯車が大きく回るきっかけであったと帝は知らなかったのである。
***
「ゆかり! 話、もとに戻していいぞ! もう用は済んだ!」
「は……?」
訳を知らない紫式部は必死に考え直していた話が無駄になったと、しばらく物語も書かずに青菜をむしゃむしゃ食べながら、
そしてそのあと、「ねえ、いまどんな気持ち……?」なんて、純粋に取材として
「母君……」
「ちょっと聞いただけなのに短気な男だったよ……あれは、すぐに捨てられるね……」
「母君……」
人の気持ちをおもんばかれぬ女、だれからも恋文なんて、もらったことのない紫式部は、密かに和泉式部を
***
約二年後、寛弘五年(1008年)の春、中宮・
「姉君ってば根暗は治っても、頭の回転の遅さは変わってな……あいたっ!」
「中宮さまに無礼を言わない!」
「あ、父君でしたか……は――い。あ、それより、うちの暴走皇子に一発、ヤキ入れてやって! お願い!
「お前、なん回、一生のお願いをする気なんだ……?
「
そうして、明石の君と、
史実とは多少ずれるが、ラフレシア・
「超笑える話を聞いちゃってさ――! でもあれか、
「あのやろう……」
「しっ! お願いだから、大人しくしてて……ねっ!?」
「~~~~あっ! アイツ、当てつけやがって!」
ラフレシア・
仲裁するべきであった夫、東宮は、正直言って、娘と変わらない年のラフレシア・
『ひょっとしたら、譲位される前に、気苦労でわたしが先に……それならいっそのこと、息子の
東宮はそんなことすら考えて、悩みの深い避難生活を送っていた。
***
東三条殿で、そんな騒動が巻き起こっている頃、
紫式部が起きてこないのである。
「いつものことだよ……」
不規則な生活を送る女であったため、はじめはそんな感じで、「取りあえず、寝かせておけば?」なんて、放置されていたが、娘の
「母君!? 母君!」
「……
起き上がって、そう言った瞬間、ぐらりと体を揺らした紫式部は、「こはっ!」そんな声にならない声を出して、倒れていたのである。
「母君!?」
ひどい高熱であった。それは数日後には、まるでなかったかのように、紫式部は元気になって、青菜を食べていたが、心配になった
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