🔮パープル式部一代記・伍話
帝の先ぶれの声が藤壺に響く。
「帝のお渡りにごさいま――す」
げっ! あの男がまた来た。
その日も勝手に、まわりの
「おいでませ藤壺へ……」
「え……?」
帝は、その変な挨拶に少し驚いたが、なにせ十二歳、まだまだ子ども、どこかで聞いた言葉を、使ってみたかったのだろうと思い、鷹揚に頷くと、やはり彼女の横には、闇をまとったような、珍妙な恰好の、「
そして、なにか違和感を感じていた。「なんだろう?」そう思いながら、周囲を見渡すと、見たこともない女房と、見たことのない
「あれは?」
「えっ!?」
天然系美少女(帝視線)の中宮はそう言った。なんでも、女院さまが、お気に入りの
帝は、なんとはなしに、
「……お風邪を引いていらしたのですか?」
「え? うん、ちょっとだけ。もう元気……あ、あそこのあれが、有名な
帝は中宮の問いにそう答え、どうでもいいようなことを、口にしながら、じっと畳の目を数え、いたたまれない思いをしていた。
実を言えば、それは表向きの口実で、定子と内親王、そして生まれたばかりの親王と一緒に、親子四人水入らず、のんびりと過ごしていただけなのだ。
そして、口うるさいだけであった、「女院さま」母を思い出す。
思えば不幸な人である。入内した、父、円融天皇には、女御にあるまじき、粗末でわびしい扱いしか受けず、次の花山天皇のあとすぐに、七歳で即位した自分を、実の父である藤原兼家らの横暴から、体を貼って必死に守り抜き、結果、出過ぎた女と、内裏中から陰口を叩かれても、一歩も引かず、ただひたすらに朕を、周囲の風から守ってくれていたのだ。
あの厳しい母が、内裏を出てからというもの、清々しささえ感じていたが、いまでも朕のことを思い、陰でこうして支えてくれていると聞くと、やはりという思いが頭を過る。
あの、厳しさは、やがて帝となる息子への愛情、うっとおしい程の出しゃばり具合は、息子を溺愛するあまりの行動だったのであろう。
親となった帝には、母の愛を受け入れる「
「
「あ、ありがとうございます……にょいんさまは、なによりも、およろこびなると、そうおもいます!」
勢い込んで、そう答える
国家の頂点でありながら、個人的には、実に不肖の息子である。
母にとっては、愛を一心に込めて育てようと、母なりに、いや、弟の道長以外を、すべて敵に回しても奮闘して育てた、たったひとりの子供であったというに……。
きっと、この
「…………」
やけにしんみりした帝は、人払いをさせると、
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