🔮パープル式部一代記・参話

※和泉式部、フィクションてんこもりです。


***


 さて、やたらと、皇后・定子さだこさまのところにいる、「」とこと、清少納言と、藤壺にいる、中宮・彰子あきこちゃんの心の「師」? 誰もが引きずり込まれること「藤式部ふじしきぶ」の奇行に、後宮では注目がゆきがちであったが、なぜかある日をさかいに、緑子みどりこと同じく女童めわらのころから、内裏に出仕していて、一旦、結婚退職? していた、優れた歌人との呼び名も高い、「和泉式部いずみしきぶ」(年齢不詳)が、唐突ではあったが、藤壺に出仕していた。


***


『白波の よるにはなびくなびき藻の なびかじと思ふ われならなくに……』


(意訳:白波になびく藻のように、わたしの気持ちは揺れています。誰にもなびくことはない、そんな律儀な女ではないのです……)


***


 その歌が示すように、彼女には三人の子がいたが、「え? 誰の子かって言われても……う――ん……分かんない。生むには生んだから、わたしの子には間違いないです」そんな、と言うような、恋多き女である。


「ほら、この歌を見て、ピンときたの……物語のいいが入るかもって……」

「中宮さまも、お人が悪い……」

「ふ……ふふふ……」


 そんな風に、彰子あきこちゃんは、「声掛け厳禁ただいま絶賛執筆中」そんな札を、魔除けのように几帳にぶら下げて、つぼねに立てこもっていた、藤式部ふじしきぶを、わざわざ呼び出すと、前で畏まっている和泉式部いずみしきぶを、紹介していた。


 幼い頃から、内裏で鍛えられ? 酸いも甘いも、分かってます……そんな様子の彼女は、実に素晴らしい働きぶりで、藤壺の女房たちからも驚きと共に、すぐに一目も二目もおかれていたが、驚きは、それだけではなかったのである。


「え……? 恋文が一日で……そんなに!?」


 そう、藤壺、否、一条天皇の後宮、はじまって以来! そんな衝撃が走るほどに、彼女のつぼねには、毎日、どんと積まれた、歌が届けられていたのである。


「おじゃまします……おや、だれもいない……そう、それなら、このお宝の山(恋文の山)から、少し失敬しても分からな……うわっ!」


 積まれた歌の山に、こっそりと手を伸ばそうとしていた藤式部ふじしきぶは、驚いた声を上げて、飛び退っていた。彼女に向かって、釵子さいしと呼ばれる、金属製の鋭いかんざしが飛んできたのである。


「いくら女御さまのお気に入りとはいえ、ぶしつけでは……ありませんこと……?」

「…………」


 手強い女……


 藤式部ふじしきぶは、そう思いながら、じっとりとした目で、和泉式部いずみしきぶを見上げつつ、今後を考え、「つぼねを間違ってしまい……」などと、見え透いた言い訳をしながら退散していたが、「なぜ、釵子さいしなんか、持ち歩いているのだろうか? しかも、大きくないか? あれはもはや暗器……」そんなことを、自分のつぼねで考えていたが、むろんそれは、ことを聞き及んでいた、和泉式部いずみしきぶの対策であった。


「あの女、どうやって攻略したものか……なあ、道長、ちょっと、ちょっかいかけて、ネタを拾ってきてくれない? たぶんその方が、手っ取り早い……あの様子じゃ、きっと凄いお宝ネタを持っているよ、あの女……」

「ゆかり……いや、藤式部ふじしきぶよ、そこまでの協力はちょっと……あまりタイプじゃないし……逆に凄いスキャンダルで、脅されそうな予感しかない……」


 そんなことを、地位と名誉と権力が、恋よりも大切な、左大臣である道長は、物語の続きを受け取りながら言っていたが、ふと、いいアイデアを藤式部ふじしきぶに授けていた。


「そういやさ、子どもの頃って、なんにも分かってないと思って、結構なんでも盗み聞きできたよな……」

「あ、それ、あるある話……」


 ふたりの視線の先には、おびえた緑子みどりこが固まっていた。


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