🔮パープル式部一代記・第七話
出会いのあとすぐに帰るのかと思った道長は、大勢の従者を道にぎっしり待たせたまま、ゆかりに自分の計画、もとい計略を持ちかけていた。
ゆかりも近所の目を気にするような性格ではないため、ちっちゃで質素な家の前は急遽ギッチギチになり、強制的に通行止めになっていた。
「あのさあ……うち、娘が入内するんだけどな、娘の女房になって内裏で働かないか?」
「え?」
「内気な娘が心配でさ、一日に少しだけ相手をしてくれれば、あとは書きたいだけ物語を書いてくれていいから。専属作家として専用の
「…………」
道長は、帝にはすでに溺愛されている
『あいつより暗い……いや、暗いなんて言葉では言い表せない底光りする闇を抱えた
そんなことを考えたとか考えなかったとか……。
「専属作家……書きたいだけ物語を書いていい……」
「衣食住の保証付き、物語を書くたびに臨時のでき高払い。ついでにお前の実家にも仕送りもしておく」
「少し怪しい気もするが……その話乗った……」
***
夕刻、壊れた家に帰ってきた父は腰を抜かしていたが、ゆかりに、「家の修理の算段はついている……明日から勤めにでるので仕送りはするから名無しは頼んだ。物心がつけば、この箱を母の想いだと言って渡してやってほしい……」そんなことを言われ、塀もなく屋根も穴の開いてしまった家で、娘は、とうとうおかしくなってしまったのではないか?
そうも思ってまんじりともせず、夜を過ごしていたが、翌朝、少ない荷物を風呂敷にまとめて、ゆかりは迎えにきたらしき上等な牛車に乗り込んでどこかへと姿を消し、入れ替わりに心配していた仕送りも届き、大工がやってきて家も修繕されだしたので、「よ、よかった」そんなことを口にしながら、「名無しちゃん」の名前を考えていた。
そして、ゆかりが残した箱の中身と言えば、「こんなもんでいいか……自分の才能が怖い……」 その言葉が示すとおり、自分が「名無しちゃん」をどれだけ愛していたか、思いやって世話をしていたか、そんな内容の素晴らしい歌を詠んで大切っぽい箱に入れた歌の束であった。
文才と性格はさておいても義理とはいえ母としては、アレである。
「名無しちゃん」ならぬ、幼名「
***
〈 道長のやかた・大豪邸の
「え? 殿がこのやかたに
「え……あの、その
「???」
「不気味なんです!
「まあ……」
打っても響かない、笑顔なんて見せたこともない、そんな根暗な娘の
「お帰りなさいま……ひっ!」
「はじめまして……
「~~~~殿? なんですのコレ?」
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