3-3 お父さんがぜんぜん起きてくれない

「ねえミノル、いい加減にお父さんを起こしてきてちょうだい」

 朝ごはんの支度をしていたお母さんが、仕方ないわねぇとため息をつく。いつも早起きなお父さんにしては珍しい。特に今日は日曜日。みんなで山登りをする予定になっていて、「明日のために寝とかなきゃ」と、前の日は誰よりも早く“ねむち”したはずなのに。

「どっか体調が悪いのかな」

「どうせ寝てるだけよ。ほら早く行って」

 さらりとお母さんが言う。なんだかいつもと違って、冷たい感じだ。もっと心配してあげてもよいのにな。


「お父さん、起きてる? 入るよ」

 返事がない。心配になったぼくは、部屋を二度ノックして扉をあける。見ると、お父さんのベッドがこんもりしている。頭まですっぽりとフトンを被っているせいでハッキリしないけど、病気でつらそうな感じはしない。スウスウ寝てるのかな。

「ねえってば。今日はハイキングに行くんでしょ。もう荷物も車に積んであるから、あとはお父さん待ちだよ」

 それでも返事がない。何か言ってくれてもいいじゃないか。頭にきてフトンをめくると、ぼくは思わず「わぁ」と声をあげてしまった。だってそこにいたのは、タイガーマスクだったから。

 頭の中が、「?」でいっぱいになる。さすがにお父さんだって、眠る時にはマスクを脱いでるはず。なのに? なんで? 混乱するぼくに、お父さんが追い打ちをかける。


「なあミノル。なんか山行きたくない」

「なに言ってんのさ。一番楽しみにしてたの、お父さんじゃん」

 うそ。一番楽しみにしてたのは誰でもない。ぼくだ。月曜から金曜まで、ぜっさんイジメられ中だからこそ、日曜日のお出かけが何より大切だったのに。なのに、なんで。

「いやそうなんだけどな。なんか面倒になっちまってなあ」

「もうふざけてないで、シャキッとしてよ」

 無理やり手を引っぱっても、ぜんぜん起きようとしない。なんてお父さんだ。そんなワガママが許されるなら、「学校に行きたくないけど、行かなきゃ……」と毎日悩んでいるぼくがバカみたいじゃないか。


 仕方なく台所に戻って、お母さんとお姉ちゃんに助けを求めることにした。

「あらあら。じゃあ今日は中止ね」

「そっかあ。残念だけど仕方ないっか」

 二人とも、やけに諦めが良いのはなぜだろう。

「やだよ。お母さんもせっかくお弁当作ったんじゃん。みんなで食べようよ」

「お弁当なら家で食べればいいでしょ」

「外の方がぜったい美味しいじゃん」

「お母さんのお弁当だよ。どこだって美味しいわよ」

 お姉ちゃんの台詞に言葉が詰まる。お母さんの料理は最高だし、いつでも美味しいのは間違いない。それはそうなんだけど、そうじゃない。

「だったら、もう一度起こしてらっしゃいな」

 お母さんはそう言うと、ぼくの背中を優しく押した。

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