第10話 連鎖する復讐
草野の復讐は、草野の当初の予想をはるかに超える形で広がり続けていた。最初は自分が受けた苦しみをいじめた人物たちに返すことを考えていたが、復讐の炎は草野の手を離れ、全国へと燃え広がっていた。
草野がヒロシのいじめの実態を暴いた動画が、同窓会での再会が発端となったことがまことしやかに囁かれるようになっていた。それを受けて、全国でそれを模倣した復讐が繰り返されるようになっていた。
九州地方の小さな町で開催された同窓会では、集まったメンバーが酒を交わしながら昔話に花を咲かせていると、突然、一人の男性が立ち上がり、スマホを取り出して作成した動画を全員に回覧し始めた。その動画にまとめられていたのは、いじめ加害者であったかつての同級生に対する暴露動画だった。その動画には、過去のいじめ行為を具体的に説明する内容や、加害者の現在の勤務先、家族構成などが赤裸々に映し出されていた。
「俺が苦しんだ分、今度はお前たちが苦しむ番だ」
その言葉と共に、その男性はその動画を動画サイトにアップロードした。
動画の内容は過激でありつつも事実であり、次々と過去のいじめ行為が暴露されるものだった。参加者たちは次第に青ざめ、やがて会場全体が静まり返った。その同窓会はその場で即時解散となった。動画の拡散を止めることはできず、加害者たちは地元で孤立するようになり、外出もできなくなった。ことの顛末は「10年前のいじめの事実が明るみに」という記事とともに、地元新聞にも取り上げられた。
東京では、とある中堅企業のオフィスの女性社員のデスクに、一通の手紙と共にUSBメモリが郵送されてきた。手紙には、「大切なデータなのでなくさないでね」という一文が書かれているだけだった。不思議に思った社員はそのUSBメモリを会社のPCに差し込み、保存されていたファイルを開久野だが、そのファイルにはコンピューターウイルスが仕込まれていた。ウイルスが社内のネットワークに拡散し、社内LANに接続するすべてのPCのデスクトップに彼女が中学生時代に加害者として関わっていたいじめの記録のファイルがコピーされた。本人は既に忘れ去っていた過去の暴言や暴力が、彼女の勤務先の全ての社員に晒されたのだ。過去が明らかになった彼女は社内での信頼と立場を失い、退職に追い込まれることとなった。この件はニュースにもなり、「過去のいじめ加害者を告発する新たな手法」として取り上げられた。
同窓会の開催そのものが恐怖に変わり、全国で同窓会の開催が自粛されるようになった。同窓会が中止されるニュースが次々と飛び交い、自分は過去にいじめをしていないか、いじめの報復を受けることがないか、誰もが恐れるようになっていた。社会全体が、草野の復讐が発端になって揺さぶられていた。
「成人式の中止が発表されました…」
その一報は、世間に衝撃を与えた。とある自治体が、草野が引き起こした復讐劇の影響で、いじめ加害者への報復を恐れて成人式そのものを中止すると発表したのだ。それは、かつてのいじめ被害者たちが成人式を利用して、加害者に報復を行うことを心配した自治体が講じた措置だった。同窓会だけでなく、成人式という社会的なイベントまでが中止される事態にまで発展していた。
「成人式も中止か…」
草野はそのニュースをスマホで見た時、思わず笑みがこぼれた。俺の復讐はここまで影響を与えたのか。いじめっ子たちが怖がり、社会全体が俺の行動を恐れている。「この世からいじめがなくなるのだ。俺は正しいことをしている。俺こそが正義だ。」そう思うと、草野は再び高笑いした。彼の胸には一瞬の達成感が広がった。自分が手を下した復讐が、全国に影響を与え、社会の秩序さえも変えてしまっている。草野は自分の力に酔いしれていた。
飲み会がなくなった各地の居酒屋やレストランは、売り上げの減少に喘いでいた。減った客足を取り戻そうと、どの店でも監視カメラを設置して毒物などの混入や不審者の出入りを防ぐ対策が取られたが、それでも客足は遠のき、多くの店が閑散としていた。店長はホームページや動画サイトで「当店の安全対策は万全ですから、どうぞ安心してご来店ください」と言うものの、客足が戻ることはなかった。
過去にいじめを行った者たちの人生が次々と崩壊していく。その様子に、草野の達成感と満足感はこれ以上ないほどに高まっていた。
「これでいいんだ。奴らは報いを受けるべきなんだ。この世は正しい方向に向かっている。」
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