第4話 情報収集②

草野は、再び「夢キララ」に足を運んだ。前回の訪問で彩子を完全に信じ込ませたという確信はあったが、まだ満足するには早すぎた。いじめっ子連中に復讐を果たすためには、もっと多くの情報が必要だった。だからこそ、草野は計画を進めるために、この夜も店の派手なネオンの下を通り、彩子との会話に臨んだ。


彩子が現れた瞬間、草野は彼女の変化に気づいた。ドレスの露出度が前回よりも高くなり、彼女は前回よりもさらに親密そうに草野に近づいてきた。彼女の化粧も一段と派手で、どこか艶やかさを増しているように見えた。彼女は草野がいる席に座ると、身体を少し近づけるようにして、「また来てくれたのね」と微笑んだ。


「そりゃあ、彩子と話してると楽しいからね」と、今回は彩子を親しげに呼び捨てで呼んでみた。草野は彼女の信用を得ている手応えをしっかりと感じていた。今回は、いじめっ子たちの情報をもっと引き出さなければならない。草野は、彩子の気を引きつつ、自然な流れで会話を進める準備をしていた。


シャンパンを注文して、彩子がグラスを手に取ると、草野はさりげなく話を切り出した。「そういえば、同窓会の話だけど…タクヤも来るんだよな?」


「もちろん、タクヤも来るわよ。今、工務店で働いてるって噂だけど、相変わらず偉そうにしてるらしいわね。なんでもパチンコが趣味でさ、毎週のように通ってるんだって」彩子は軽く笑いながら言った。


草野はその言葉を聞きながら、心の中で燃え上がる怒りを抑えた。タクヤはあの頃と変わらず、何も悔い改めることなく、自分勝手に生きている。それに対して、草野はずっと過去の苦しみに囚われているままだ。「あいつが一体どれだけの苦しみを俺に与えたかを思い知らせてやるべきじゃないか?」 そんな考えが頭の中を巡り、草野は次の一手に思いを巡らせた。


「そうか…ヒロシも来るんだろ?結婚したって話を聞いたけど、今はどんな感じなんだ?」草野はさらに深く問いかけた。


彩子は、すでに草野を完全に信用しきっていたのか、何の躊躇もなくペラペラと話し始めた。「そうそう、ヒロシも結婚して今は信用金庫に勤めてるのよ。家も買ったみたいで、生活は安定してるって聞いたわ。昔のことを知ってる私からすれば、信じられないけどね。あのヒロシがまじめに働いてるなんて」と、彼女は鼻で笑う。


草野の胸に、再びヒロシに対する怒りが燃え上がった。「ヒロシ、お前も同じだ。俺をあざ笑い、蹴り飛ばしておいて、今は幸せそうに生きているのか。お前にはその権利があると思っているのか?絶対に許さない。」 彼の頭の中で、ヒロシへの復讐のアイデアが膨らんでいく。会社や家族に彼の過去を暴露するのもいいが、それだけでは足りない。ヒロシにはもっと大きな代償を払わせなければならない。だが、そのためには、もう少し彩子から情報を引き出す必要があった。


「直樹も来るのか?あいつも地元に残ってるのか?」草野は無表情を保ちつつ、次の質問を投げかけた。


彩子は少し考え込んだ後、「ええ、直樹くんも来るって言ってたわ。いまは市役所の福祉課で働いてるみたいでね。当時から堅物の学級委員だったけど、今はもう立派なお役人さんね。」と、遠い世界を見るような物言いで言った。


「直樹もか…あの時のことを全て見て見ぬふりをして、俺を助けなかった男が今は福祉だと?お前が一体、何を救おうとしている?俺を見捨てたお前が。どんな顔をして、誰かのために働いているつもりだ?」 草野の中で、復讐のターゲットが次々に明確になっていった。ヒロシも、タクヤも、そして直樹も。皆、今は順調な生活を送っている。だが、草野はそんな日々を一気に壊してやるつもりだった。


「そっか、みんな集まるんだな」と草野は穏やかな笑みを浮かべながら返事をした。しかし、その裏側では、復讐の計画が着々と進んでいた。この同窓会で、全ての恨みを晴らす。その決意が固まりつつあった。

彩子はさらに身体を草野に寄せ、少し艶やかな表情で「草野くんのITビジネスの仕事はどうなの?」と、耳元でささやくように問いかけた。前回よりも胸元が広く開いたドレスが、草野の左腕にまとわりついていた。彼女の態度は以前にも増して大胆で、草野を引き込もうとしているのが明らかだった。カネか?好意か?いや、どちらでもいい。いずれこの彩子にも地獄を味わわせてやるのだから。


草野はその想いを悟られぬよう冷静に返答した。「ああ、仕事は順調だよ。いまはAIの大ブームだろ?まさに俺の得意分野だよ。ただのバブルかもしれないけど、時代の波に乗って今は稼がせてもらってるよ。」彩子はその説明を聞き、すっかり納得した様子で頷いた。「なるほどね、そういうことか。草野くんってやっぱりしっかりしてるのね。自分の得意分野がある人って素敵だわ…私、もっと草野くんと仲良くしておけば良かったな。」

彩子が完全に自分を信じ込んでいることが確認できた瞬間だった。彩子はペラペラと情報を喋り続け、草野は彼女から全てを引き出そうとしていた。いじめっ子たちの現在の状況、そして同窓会で彼らをどう罠にかけるか。その全てが、今の草野には手に取るように見えていた。


「そういえば、担任だった太田先生も来るのかな?」草野は最後にそう問いかけた。彼の声は少し硬くなったが、彩子はそれに気づかず、「ええ、太田先生はいま別の学校で教頭先生をやっているんだけど、ちょうど定年を迎えるからみんなでお祝いをするんだってさ。」と軽く言った。

「太田…あの男だけは絶対に許さない。俺があれほど助けを求めたのに、あいつは俺を見捨てたんだ。いじめられる方が悪いなんて言いやがって。教師でありながら、俺を守ることすらしなかったくせに。今も教育に関わってるだと?あり得ない。お前も俺に対して責任を取るべきだ。」草野の心の中は、太田に対する憎悪が爆発寸前まで高まっていた。


「これで準備はすべて整った」と草野は内心ほくそ笑んだ。彼の胸の中で、復讐の炎が激しく燃え上がっていた。この同窓会で、自分をいじめたすべての者に地獄を味わわせる。草野は再び自分に誓った。彩子もその一人だ。甘い言葉と優しい仕草で彼女を操り、最終的には彼の計画の一部として使い捨てるつもりだった。

胸の中で何度もその光景を思い描きながら、草野は努めて自然に微笑んだ。「ありがとう、彩子。同窓会がますます楽しみになってきたよ。当日会えるのが楽しみだね。」彼の声の裏側では限りない憎悪が溢れていたが、彩子はそんなことに気付くはずもなかった。

「当日も、そのドレス着てくればいいのに。みんなから注目の的だよ。」と、草野はおだてるように彩子に言った。

「やだ、同窓会にこんな派手なドレス着てこないわよ。」彩子は大笑いしながら、何も疑わずに応じた。その無防備な姿が、草野の心にさらなる憎しみの火を灯すのだった。

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