第9話

「お兄ちゃん起きて!お友達が来るんでしょ!」


休日を満喫してると、土日はいつも起こしに来ないのに、体を揺らされて起こされた。


「今何時?」


「十二時半だよ。」


「え?もっかい言ってくれ。」


「だから十二時半だって。」


十二時半!?もう藍沢さん来るじゃん。


「うわっ!危ない!」


寝転がった状態から勢いよく起き上がったので、夕佳とぶつかりかけた。が、今はそれどころじゃない。


「もっと早く起こしてくれよ。」


「何回も起こしたよ。でも起こすと毎回、まだもうちょっと寝るって言ったのはお兄ちゃんじゃん。」


「とりあえず、お兄ちゃん着替えるから出て行ってくれ。」


「もー!世話の焼ける兄を持つとこれだから...」


ブツブツと文句を言いながら部屋を出ていったのを確認して、藍沢さんの要望通りにこの前買って貰った服に着替えて歯を磨く。


「お兄ちゃんその服...似合ってる!」


「そうか?サンキュ。」


夕佳も似合ってると褒めてくれたけど、やっぱり服のことはよく分からないただ、褒められるのは悪い気はしない。


すると、インターフォンが鳴った。藍沢さんが来たんだろう。


「夕佳。家ん中入れていいから出てくれ。」


しかし、以前歯磨き中なので、対応は夕佳に任せることにした。夕佳に対応を任せた分急いで歯を磨き口をゆすいで顔を洗った。


玄関に向かうと藍沢さんは楽しそうに夕佳と話をしていた。打ち解けるの早過ぎない?これがコミュ強の力か。


「藍沢さん来てくれてありがとう。」


「こんにちは、麻倉君。お邪魔してます。寝起き?」


「さっき起きて慌てて支度した。」


「それじゃあ、わたしは勉強するから。茉莉さんゆっくりして行ってください。」


おー、もう名前呼び。さすが俺の妹。見事に兄を反面教師に育ったみたいで...じゃなくて、


「ちょっと待って。」


なに勉強しに部屋に戻ろうとしてるんだ?藍沢さんを家庭教師として呼んだのに、夕佳が1人で勉強したら意味ないだろ。


ほら、藍沢さんも困惑してるじゃんか。このままじゃ何しに来てもらったか分からなくなる。


「何?早く勉強したいんだけど。」


「藍沢さんお前の家庭教師を引き受けてくれたからって言っただろ。」


「言われてないけど?それよりもお兄ちゃん?大事なことは早く言ってよ!」


「へ?あれ、言ってなかったっけ?」


いやいや、言ったよ...言ったはず...言ってない?確かに、夕佳に伝えた記憶が無い。


「言われてないよ。わたしそんなに大事なこと忘れないもん!」


「こちら、夕佳の家庭教師を引き受けてくれた学年一位の藍沢茉莉さん。」


「遅っ!今言ったから問題ないとか言ったら殴るよ。」


怖いから殴らないでくれ妹よ。お兄ちゃん全面的に悪かった。だから、藍沢さんも呆れて天を仰がないでくれ。


「改めまして、麻倉君にお願いされて家庭教師を引き受けた藍沢茉莉です。突然の事でびっくりしてると思うけど、主に麻倉君のせいで。よろしくね夕佳ちゃん。」


藍沢さん!?これでも一応反省して傷心してるんだから、傷口抉らないで。


「いえいえ、こちらこそ。お兄ちゃんがご迷惑をおかけしているようで。家庭教師を引き受けて頂いてありがとうございます。よろしくお願いします茉莉さん。」


夕佳まで!?なんで迷惑かけてるのは確定なんだ?かけてるけど現在進行形でかけてるけど、傷口は抉らないで。


「それじゃあ、早速勉強見させてもらってもいいかな?」


「はい。分かりました。こっちです。」


夕佳が自分の部屋に藍沢さんを案内する後をついて行って、ちょっとだけ見学でもしようかなと思ったら、


「麻倉君は、自分の部屋で勉強しててね。」


と、言われて大人しく部屋に戻って勉強を開始しようと思ったけど、全くやる気が起きない。二度寝でもしてやろうかと考えたが、さすがに昼過ぎまで寝て目も覚めてるし、何よりも、怒られそうなので大人しく机には向かってみる。


しばらくして、コンコンとドアがノックされた。きっと藍沢さんだ。


「入っていいよ。」


「失礼するね。」


遠慮がちに部屋に入って来た。座っていいよと言うと、藍沢さんは机を挟んで真向かいに座った。


「夕佳の勉強はどう?」


「順調なんじゃない?理解も早いし、教えたところはすぐにできるから、私の出番はあんまり無いかも。」


「受かりそう。」


「このまま順調に行けば安全圏くらいまでは行けそう。」


藍沢さんが言うなら心配は要らないだろう。塾とかも頑張って行ってるし、受かってくれるといいな。


「それよりも、麻倉君。今日、夕佳ちゃんに起こしてもらったみたいだけど、受験生にあんまり気を遣わせたら絶対にダメだよ。」


「良い息抜きになったって言ってなかった?」


「麻倉君?冗談言ってる場合じゃないよ?」


「はい。ごめんなさい。以後気をつけます。」


ほんとに反省してます。俺のせいで受験に落ちたなんて言われないようにしよう。絶対に。


「心を入れ替えたところで、寝癖はしっかり直さないとせっかく可愛い服着てるし、綺麗な髪してるから勿体ないよ。」


「学校行く時はできるだけ直すようにしてる。」


「普段からちゃんとしなさいって言ってるの。」


藍沢さんは俺のお母さんだった?小説一本書けそうだな。


『TSしてから良くしてもらってるクラスメイトの委員長がお母さんだった件』


どんな話だよ。さすがに無理があるってもんだ。


「聞いてる?毎日とは言わないからたまにはちゃんと寝癖だけでも直すんだよ。」


「気が向いたらね。」


「もうそれでいいよ。」


気が向くのがいつになるかは知らないけど。やった方が良いとは俺も思ってるけど、結局面倒が勝つんだよなあ。


「茉莉さーん。ちょっと聞きたいんですけど...」


夕佳が藍沢さんを呼ぶ声がドア越しに聞こえて来た。


「またしばらくはあっちにいるね。」


「ああ、行ってらっしゃい。」


「次来るまでに少しは勉強も進めとくこと。」


それだけ言い残して夕佳の部屋に行った。次来るのが一時間後か一時間半後か知らないけど、それまでにやる気が出たら良いなあ。


そう思いながら、手を伸ばして部屋にある漫画を手に取った。

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