第8話
そんなこんなで打ち上げは進んで行っていた。トラブルもなく、ファミレスでトラブルがある方がおかしいのだが、楽しい時間が過ごされていた。
「ごめん。オレちょっとトイレ行ってくる。」
「おう。行ってらっしゃい。」
このに来てから水分をよく取っていた丞がトイレに行って藍沢さんと二人きりになった。
「小金井君はああ見えて結構良い人だね。麻倉君のことをよく気にかけてる。」
「丞が?」
「そう言ってるでしょ。」
「そんなことないと思うけど?」
全くそんなことは無いと思うけど、女子はやっぱりそういうのよく見てるんだろうか?
「まあ、麻倉君は当事者だし、分からないのも仕方ないかもね。」
「そういうもんかね。」
「逆も同じように言えると思うよ。」
逆...と言うと、俺が丞を気にかけてるってことか。
「それはそうだな。何やらかすかわかんない奴だからな。」
「信頼してるんだよね。お互いに。」
「今のどこに信頼してる要素があったの。」
俺には全く分からないが、なんか知らないけど、藍沢さんが満足そうに頷いてるからどうでもいいか。
「ねえねえ、そこのお嬢ちゃん達。」
突然、隣の席に座っていた二人組が馴れ馴れしく話しかけてきた。二人の格好を見てああ、ナンパだなと確信した。
自分で言うのも嫌だが、俺はかなりの美少女だし、藍沢さんも普通に可愛いので、二人きりでいたらいつかナンパされたりするのかなあなんて、考えてたけどまさかねえ。
こんなに人の目の集まるファミレスでされるなんて夢にも思わなかった。
「良かったらこっちに来て一緒に食べない?奢ってあげるよ。」
「...」
反応しても面倒くさそうなので、俺と藍沢さんは無視を決め込んでいた。それでも、二人の男どもはしつこく話しかけてきて普通にうざい。
「いや、俺たち友達と来てるんで、他所当ってもらってもいいですか?」
「え?ああ、俺っ娘?おれ達そういうのも好きだよ。男子と来てるのも知ってるけど、おれ達と一緒の方が楽しいと思うよ。」
ああ?こいつら日本語話せないタイプだ。藍沢さんはこいつらと目も合わせようとしない。それどころか、ちょっと怖がってるようにも見える。
てか、丞の奴いつまでトイレ行ってんだよ。うんこか?なんでもいいから早く帰ってきてくれ。
「普通にうざいから話しかけてくんな。誰もお前らなんてお呼びじゃねえよ。」
やべえ、なるべく穏便にしようと思ってたのに、腹が立ちすぎて思わず敬語が...。
「こらこら、女の子がそんな乱暴な言葉使っちゃいけないよ。」
「こっちの子はこう言ってるけど、そっちの君はどうする?」
こいつら、俺が誘いに乗らないとわかって、藍沢さんに矛先向けやがった。取り敢えず、その胸にしか向いてない視線を何とかしやがれ。
「お前らほんとにしつこい。お前ら自分がかっこいいと思ってそんなチャラチャラした服着てんのか知らねえけどよ。それだったら俺の友達のが何倍もイケメンだぞ。」
「はいはい。そこまで。オレのことイケメンだって言ってくれるのは嬉しいけど、店員さん呼んできたから穏便に済ませてもらおう。」
いい加減堪忍袋の緒が切れそうなところで、丞が割って入ってくれた。
「遅せぇよ。もっと早く来てくれ。」
「しょうがないだろ。大きい方だったんだよ。」
俺が一通り店員さんに事情を説明すると、すぐに店から追い払ってそいつらを出禁にしたみたい。出ていく前に捨て台詞を吐かれた気がするけど、興味もないので聞き流した。
「ふぅ。一件落着。」
「藍沢さん大丈夫?」
「大丈夫だよ。ちょっと怖かったけど、麻倉君ぁ守ってくれたからね。かっこよかったよ。」
なんか久しぶりにかっこいいって言われた気がする。こんなに嬉しかったっけ?まあ、俺に藍沢さんを守ろうとする意識があったかと言われると微妙だが。
「そんなに照れるなよ。」
「んなっ!?て、照れてねえ!」
どうやら顔が赤くなっていたらしく、照れてたのがバレた。それでしばらくからかわれた後丞が言った。
「それにしても、あいつら馬鹿だな。こんな場所でナンパするなんてよ。上手くいく訳ねえのに。」
「同感だな。」
こんな場所じゃなくても、あいつらについてくなんて死んでもありえん。
「でも、どうして私たちだったんだろ?麻倉君は可愛いけど、私は見向きもされなくてもおかしくないと思うんだよね。」
「委員長さん本気で言ってる?」
「本気だよ?」
いや、まあね。自覚がないのは知ってた。
「藍沢さんはそのままでいるのがいいよ。」
「そうだな。それがいいな。」
「ちょっと、二人で納得しないでよ!」
それもまた、藍沢さんを引き立てる魅力と言うことだ。ただ、藍沢さんに限ってないとは思うが、変な男に引っかからないようには見張っておかなければ。
ひとしきり打ち上げを楽しんで、後は帰るだけだが日も落ちて暗くなってきているし、あんなことがあった手前一人で帰らせるのも忍びない。
ということで、藍沢さんの反対を2人で押しきって家まで送っている。
「いやぁー、今日は楽しかったねえ。」
「そうだな。多少トラブルもあったけど、打ち上げは大成功と言って良いでしょう。」
「私も楽しかった!呼んでもらってありがとう。嬉しかった。」
「次も一緒に打ち上げやろう。」
俺が言うと、藍沢さんが腕を高く突き上げて
「おー!」
と、言ったので、俺たちはそれと同じように腕を突き上げた。
「私ここだからもう良いよ。送ってくれてありがとね。」
「ほんとに近かったね。」
「だから大丈夫だって言ったじゃん。」
藍沢さんがそう言って顔を綻ばせる。
「じゃ、また学校で。バイバイ。」
「またね。バイバイ。」
「楽しかったよバイバイ。」
藍沢さんに手を振ってから背中を向けて歩き出した。その時、
「今度、家庭教師しに行く時は、私が買った服着といてね。」
とんでもないことを言った。
「え?」
急いで振り返っても、そこに藍沢さんの姿はなかった。
「せっかく買って貰ったんだったら、本人の前でぐらい着てあげろよ。」
「わかったよ。着りゃ良いんだろ着りゃ。」
「そうだ。着たらいいんだ。ついでにオレも見に行っていいか?」
「良くねえよ!だいたいなんでお前に見せなきゃならねえんだ!」
「オレが見たいからに決まってんだろ?」
なんで当然のこと聞いてきてんだ?みたいな顔されてんだよ。丞の前で女物の服着ることなんて一生無い。断言できるね。
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