第7話

「中間試験お疲れ様&目標達成、藍沢さん一位おめでとう会!」


打ち上げでやってきたのは、心強い学生の味方バイト代と少ないお小遣いで来られる〇イゼリヤ。適当に藍沢さんを誘ってみたけど、正直来てくれると思ってなかったので、びっくりしてる。


「委員長さん。よく来てくれたね。突然だったのに。」


「’特に予定も無かったし、楽しそうだったからね。それに、友達と打ち上げって初めてだから誘ってもらえて嬉しかった。」


眩しい!思わず目を覆いそうになった。クラス間で何故かお堅いイメージを持たれている藍沢さんの純粋な笑顔を見た事が無い人が多い。


そんな中、俺と丞だけしかこの笑顔を知らないと思うと、優越感に似た物が込み上げてくる。


「とりあえず、何か頼もう。」


全員分のドリンクバーと、各々が食べたいモノを頼み本格敵に打ち上げが始まった。


「そういえば、私まだ聞いてなかったんだけど、二人の目標ってなんだったの?」


「二人揃って五十番以内。この前の期末試験は、真雄が五十番以内に入れなかったからそのリベンジだね。」


丞がそう言うと、藍沢さんが目を丸くした。


「小金井君が頭いいって麻倉君の冗談だと思ってた。」


「だから俺言ったじゃん。」


「だって、チャラチャラしてそうな人が頭いいって信じられなかったんだもん。やっぱり人を見た目で判断するのは良くないね。」


丞なんて雑に扱うくらいがちょうど良いのに、反省する藍沢さんはやっぱりいい人なのだろう。


「ちなみに、オレのが順位良かったぞ。」


「要らんこと言わんでいい。あんまり変わらなかっただろ。」


「いやいや、八位違いは結構だろ。点数にして十点ちょっとだぞ。」


まあ、それはそうなんだけど、自信があった分負けたのが普通に悔しいだけで、十点ちょっとが遠いのは前回経験してるから知ってる。


「でも、俺がお前に負けるのも今回までだ。ね?藍沢さん。」


「そうだよ。私が麻倉君に勉強を教えることになったからね。覚悟してなさい。」


「次回、藍沢さんという心強い味方を得てお前を倒す!」


「ふははっ。受けて立ってやろう。」


意外と藍沢さんがノリノリで合わせてくれた。丞は言うまでもなくノリがよく悪役風になってくれた。


俺と丞はこんなしょうもないノリをよくやるのだが、今まで俺たち以外に人を入れた時は、上手く波長が合わなかったので、このノリち着いてきてくれるのはありがたい。


「てか、委員長さんって夕佳ちゃんの家庭教師だけじゃなくて、真雄の勉強まで見るってマジ?」


「マジマジ。大マジ。妹さんのついでだしちょうど良いでしょ。」


丞も驚いているけど、ちょうどいいとかそんなレベルじゃない気がするんだが、藍沢さんほんとどうなってるんだ?頭上がんねえよ。


「無理しちゃダメだよ。」


丞が藍沢手を両手で包み込んで言った。出たよ。さりげなーいスキンシップ。これに堕とされた女子は数...は知れてるか。


しかし、本人は無意識だと語っているのが質の悪さを悪化させている。どう考えても意識的にだと思うが。


「へ?うん。大丈夫だよ。」


それに、びっくりしたのか藍沢さんが肩をビクッと跳ねさせた。


「藍沢さん。騙されたらいけない。こいつは誰にでも平然とこんなことをするような奴だから。」


藍沢さんは、顔を赤くしたりしてなかったので、単にびっくりしただけだと思う。


でも、なまじ顔がいいだけに油断はできないので、一応大丈夫だと思うけど、一応忠告しておく。藍沢さんがこいつの毒牙に掛かるのは許せない。


「んだよ。真雄が委員長さんを頼りすぎだから、心配しただけだろ。オレが女子を誑かしてきたみたいに言うな。」


「え?誑かして来てないの?あのスキンシップは誑かしてきた人のだと思うけど...」


女子を誑かしていないと主張する丞に、藍沢さんは口を両手で隠すようにして椅子を少し引き、まるでUMAにでも見つけたかのような反応をした。


「ほらぁ、委員長さんが誤解しちゃったじゃねえかよ。」


「誤解じゃないから言ってんだろ。今まで何人と付き合っては別れを繰り返したか言ってみろ。」


「十人くらい?」


「知らねえよ。これのどこが誤解だ?」


中学生から付き合っては別れを繰り返して、気づけば十人にもなってたらしい。俺も何人かは知ってるけど十人もいたとは衝撃だ。


しかしだ。十人くらい?と疑問形になるのはどういう了見だ?昔の女なんて忘れたってことなのか?


「誤解だろ。その十人くらいは一人残らずオレが振られて終わってるんだから。それもだいたい半年から、早い人だと二週間くらいにな。」


「誤解じゃねえよ。尚更酷いじゃねえか。お前は誰一人として大切にしなかったってことだろ。」


「だから違うんだって。振られた時の言葉ってだいたい、丞くんって全然私のこと見てくれ無いねって言われてんだぞ。」


「俺の言った通りじゃん。彼女がいるのにほかの女子に現抜かしてたんだろ。」


何も言い返して来なかったので、それを事実だと認めたと思っていいだろう。これでどうやって誤解が解けると思ったんだ?こういう所で頭の良さは感じられないのに。


ただ、これで藍沢さんに丞の女誑しぶりが伝わっただろう。いい仕事をした。そう思って藍沢さんを見ると、


「ふふふっ。」


楽しそうに笑っていた。俺と丞は、藍沢さんをほったらかして話してたのに、楽しそうにしてる意味が分からなかった。


「いや、ほんとに仲良いよねって思ってね。」


「ああ、なるほどね。」


「麻倉君と小金井君の掛け合いって言うのかな?それが面白くてずっと聞いちゃってた。」


まあ、藍沢さんが楽しいのなら良いんだけど、拍子抜けしてしまった。


「小金井君が女誑しなのはしっかり伝わったから安心してよ。」


「何も安心できる要素が無いんだけど!?オレ委員長さんに手を出そうなんて全く考えてないよ。」


「自業自得だ。過去の行いを悔いて改めるんだな。」


まあ、俺としてはこっちに被害が来ないのなら、自由にしてもらって構わないのだが。


「委員長さんには手を出すつもりはこれっぽっちも無いからほんとに!」


「だったら良いんじゃない。」


なんて懐が深いんだ。慈愛に満ちすぎてて、どこまでやれば怒られるのか試してみたくはある。絶対にやらないけど。


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