第6話

試験当日、今日から三日間かけて試験が行われる。教室で最終確認をして準備する。


「麻倉君は、しっかり勉強してきた?」


「ばっちりして来た。今回は結構自信あるんだ。」


「え?ちゃんと勉強して来たの?」


藍沢さんは、俺のこと勉強しない人と思ってたみたいだ。授業は寝たりせずに真面目に受けてるのに...もしかして、丞なんかとつるんでるからなのか?あいつは、髪色も派手だし、不真面目だから同じだと思われててもおかしくないか。


「心外だな。丞と一緒にいるからって決めつけなるなよ。ちなみに言うと、丞は頭良い方だぞアレで。」


「ごめんなさい。わたしてっきり俺は、勉強なんかきらいだし、赤点取らなかったら良いだろ。って感じだと思ってたよ。」


「それって、俺の真似?似てるね。」


珍しいものが見れた。藍沢さんはあんまりボケたりするイメージがなかったから、意外な一面が見れてちょっと嬉しい。


「じゃあ、お互いに試験頑張ろうね。」


藍沢さんは、恥ずかしかったのか顔を赤くして自分の席に戻って行った。


それから、名前順に席を並べ替えたりして、試験を受ける準備をして、先生から答案用紙を受け取り一つ目の試験がスタートした。


そして、全ての教科の試験が終わって、答案用紙が返ってきた。出来は全体的に良く、特に理数系が九十点近くを取ることができていた。


その逆に、文系の出来はあまり良くなく七十五点程度だった。ただ、いつも通りに行くと目標の五十番以内には入っていそうで少し安心した。


「藍沢さんは、点数どうだった。」


名前順に並べ替えた俺の席の前に藍沢さんがいる。


「見ていいよ。」


そう言って藍沢さんが、俺の机に藍沢さんの答案用紙をバッと広げた。


「すっご。やっぱりめちゃくちゃ頭良いんだ。」


「そうでも無いよー。」


藍沢さんは、謙遜しているが普通に九十点台しかないのは凄すぎる。


「どれだけ勉強したらこうなるんだ?」


「勉強はそんなにやってないかな。授業聞いてるだけでだいたい分かっちゃうから。」


「...」


開いた口が塞がらない。きっと俺は今、藍沢さんの前で情けない面を晒しているだろうが、それも仕方ない。


「いや、ほんとになんでこの学校に来たの?もっと頭のいい学校あったでしょ。」


俺の通うこの学校は、めちゃくちゃ頭がいい訳では無い。決して偏差値が低い訳では無いが、普通よりちょっと上と言ったところだ。


「強いて言うなら、家から近かったから?」


「なんで疑問形なのか知らないけど、納得してるんだったら良いと思うよ。」


なんて言えば良いか難しいけど、学校を選んだ理由が家が近いからなんて、似たようなところがあって良かった気がする。


「そんなこと言っても、麻倉君だってもうちょっと良いところ行けたんじゃないの?」


「藍沢さんと一緒。家から近かったし、丞もここって言ってたからな。」


「へぇー。ほんとに仲良いんだね。」


藍沢さんは意外そうに言うが、あの時の俺たちはお互いが別の高校に行くことを全く想定していなかった。だから、意外そうに言われても、あまりピンと来ない。


もちろん、周りからは幼馴染とはいえここまで仲が良いのは変わってるなんて言われたりもしたが、それも中学の時の話で、今はそんなことは無い。


「まあ、昔からずっと一緒だし、一番馬が合うのもアイツだからな。」


「私はそんな人いないから羨ましい。」


哀愁の帯びた彼女の一言は、かける言葉を見失わせる。


「そうだ。もし良かったらなんだけど、妹に勉強を教えてあげて欲しいんだけど...どうかな?」


思い出したように妹の家庭教師をお願いしてみて、気まずくなる前に話題を変える。


「麻倉君の妹さん?」


「そう。俺の妹。今年受験でこの学校を志望してるみたいなんだけど、正直俺よりも頭が良くないからちょっと心配でさ。図々しとは思うけどお願いしてもいいかな?」


「そんなに畏まらなくても、家庭教師くらい全然引き受けてあげるよ。ついでに、麻倉君の勉強もみてあげるよ。」


目論見通りさっき顔を覗かせた哀愁は吹き飛んで、いつもの藍沢さんに戻った。断られると思っていた夕佳の家庭教師も引き受けてくれるみたいだし、全部上手くいった。


「それで、値段の相談なんだけど...」


「お金なんて要らないよ。最初に言ったでしょ。何かあったら相談してねって。」


「ありがとう。助かるよ。正直俺、自分のことで精一杯で夕佳の勉強も見てあげられたら良かったんだけど。」


「大変な時は人に頼って良いんだよ。だから、夕佳ちゃん?の勉強は私に任せて。」


なんていい人なんだ藍沢さんは。それに、藍沢さんの前だと口が軽くなってしまって、言わなくてもいい事まで言ってしまう。


「ほんとにありがとう。」


「だからいいって。困った時はお互い様でしょ。」


ほんとに助かる。藍沢さんには恩しかない。いつか絶対に返す。


そして、あっという間に放課後になった。


「試験の出来はどうだったよ?オレは完璧だったぜ。」


「俺だって、かなり出来てたからな正直今回は、お前よりも順位が高い自信がある。」


「お、言うじゃねえか。受けて立ってやろうじゃねえの。」


俺たちは順位の張り出された場所に向かっている。


そして、順位と共に生徒の名前が書かれた紙の前に立って、自分の名前を上から探していく。名前の上に一位と書いてあった藍沢さんに心の中で拍手を送る。


「あった。オレのはあったぞ。真雄はどうだ?」


「ちょっと待て。」


丞に待ったをかけて順番に名前を探す。その途中に丞の名前を見つけた。


そして、その後に俺は自分の名前を見つけた。名前の上を見ると四十位と書かれてあった。


「見つけた。俺は四十位だった。」


「オレは、三十二位だった。おっしゃー!目標達成!」


丞が目標達成を喜んでハイタッチを求めてくる。丞よりも順位が下回ったことは悔しいが、リベンジを果たしたことに変わりはない。


「よっしゃー!よくやった俺たち!」


なので、反省も後悔も後にやるとして、今は素直に喜んでハイタッチを返す。


「目標達成おめでとう会どこでやる?」


廊下の一角で騒いでいた俺たちに、視線が集められて気まずくなったので早足で校門を抜けた矢先に丞が言った。


「いつものところで良いだろ。それと、藍沢さんも呼んでいいか?」


「いいけどなんで?」


丞に夕佳の家庭教師を引き受けてくれた件の話をした。


「夕佳ちゃんの家庭教師ねえ。いいじゃん。真雄から言われればオレがやっても良かったけど、流石に委員長さんのが最適か。順位も一番だったしな。」


「ああ、感謝してるよ。」


急に黙った丞が気になって見てみると、またなんとも言い難い顔をしていた。


「そうやってれば、可愛いのに。暴言で台無しだなと。」


「はあ?誰が可愛いって?」


「お前。他に誰がいんだよ。」


「...お前も黙ってればイケメンだよな!くそムカつくけど!」


誰が可愛いだよ。コイツも毎回懲りずに可愛いとか言ってきやがってよ。


「オレがイケメンなのは知ってる。モテてるからな。」


「うるせえ!その腐った目ん玉潰すぞ。」

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