第5話

「さて、今回もやりますか。勉強会with麻倉宅ー!」


「Foooooooo!ドンドンパフパフ!」


勉強会。その名の通り定期試験の時期になると、俺か丞の家で行われるただの試験勉強だ。頭のいい藍沢さんも呼ぼうかと思ったが、流石に男二人の空間に呼ぶのは忍びないので、今回は見送ることにした。


「まずは、いつも通り数学からやりますか。」


「だな。ところで、今回の目標はどうする?」


「前回のリベンジ。二人揃って五十番以内。」


前回の試験は、丞は五十番以内、俺が百番以内と惜しくもな結果に終わった。だから今回は何としても五十番以内には入りたい。


それに、ただただ丞よりも順位が低いのがムカつくから、丞にも負けたくない。


「なんだ。やけに気合い入ってんな。」


「うるせ。黙ってやるぞ。」


普段の姿からは、全く想像できないだろうけど、ちゃんと集中して勉強に取り組む。時々、分からないところがあれば互いに教え合う。


まさに、理想とも言える勉強会。二人とも分からないところは、先生に聞くなり、もっと頭のいい人に聞くなりして解決している。


「ふぅ。ちょっと休憩。」


「あいわかった。」


開始から一時間経過したところで、アラームがなったのでペンを置いて十分程度の休息を摂る。これを繰り返して教科ごとに理解を深めていく。


「ところで、真雄の部屋はちっとも変わらないんだな。」


「まあな。女になったからってぬいぐるみを置かないといけないなんてルールも無いんだし、誰が見る訳でもない部屋なんてどうでもいい。」


「そういう奴だよな真雄は。」


「何が不服か知らねえけど、もうそろそろ十分経つぞ。」


そう言うと、俺と丞はペンを持ちアラームと同時に問題を解き進める。


それを三回繰り返しすと、時計は十二時わ回っていた。どうりで腹の音が鳴り響く訳だ。


「あー、腹減った。飯食いに行くぞ。」


同様に丞を腹の音を響かせる。


「やっぱラーメンか?」


「当然。疲れた体にはガツンと来るものが欲しいだろ。」


「間違いねえな。」


毎度のことながら、勉強会の日の昼食は基本ラーメンを食べる。ひとまずはいつも行くラーメン屋に足を運ぶ為ドアを開けると、夕佳とばったり出くわした。


「あ、お兄ちゃんと、丞さん。お久しぶりです。」


「夕佳ちゃん。久しぶり。なんか見る度に大きくなってる気がするな。」


「太ったってことですか?」


「違っうって、身長がね。」


「ふふっ。すみません。ちょっと意地悪言いました。」


俺、夕佳があんな風に笑うところ見たことないんだけど。昔から丞に懐いてるのに関係あるのか?でも、楽しそうだし良いか。


「受験勉強は順調に進んでるか?」


「普通。」


ええ...丞と俺で反応が違いすぎない?兄として、受験勉強の進捗を聞いておこうと思っただけなのに、普通って不機嫌に包んだ声で返された。


「丞さんも試験勉強ですか?」


「そうだよ。」


「兄ちゃんも試験勉強だけど...」


「うるさい。」


兄ちゃんも一緒に勉強してるんだから、兄ちゃんに聞いたらいいじゃん。なんでわざわざ丞に聞くんだよ。


というか、普通実の兄に向かってうるさいって冷たく言う?兄ちゃん傷ついちゃうから辞めてね。


「じゃあ、オレたちご飯食べに行くから、受験勉強頑張ってね。」


「はい。ありがとうございます。丞さんも頑張って下さいね。」


「お兄ちゃんには何も無いの?え、無視?」


ああ、部屋に入って行っちゃった。


「妹が俺に冷たくて悲しい。」


「拗らせてんなよシスコン。」


「黙れ変態。」


と、醜い争いを繰り広げながら行きつけのラーメン屋に着いた。


中に入り席についてメニューも開かず注文する。すると、ものの十分もしない内に注文したラーメンが来た。


「ああ、相変わらず美味え。」


箸でできるだけ麺を掴んで持ち上げ、そのまま口に運び一啜り上げる。そして、思いのままに出た感想がコレ。


「くぅー!五臓六腑に染み渡るぜぇ。」


丞も美味そうに麺を啜り、丼を持ち上げスープを飲む。


「休憩の時間に食うこの一杯が堪んねえんだよな。」


「ほんとにな。これの為に勉強してると言っても過言じゃない。」


まさに、勉強を頑張った自分たちへのご褒美に相応しい。これで、午後からも頑張れそうだ。


ラーメンはものの数分で食べ終え、スープまで飲み干してお会計をして店を出た。


「いやー、美味かったな。」


行きはずっと喋り続けてた俺たちも、あまりの満足感に全く会話が弾まない。そのまま、特に話をすることも無く歩き家に着いて、また勉強会が始まった。


「今日のところはこのくらいですか?」


「そうだな。今日もオレたちは頑張った。」


本当に頑張った。過去一集中して勉強できた気がする。丞の顔にも疲れが見える。


「次は来週かな。それで今回は最後。」


「それが終わったらやっと試験が始まるんだな。」


「ああ、今回は五十番以内取るから。任せとけ。」


「頼むぜ。」


前回が、俺のせいで目標を達成できなかっただけに、責任重大ではある。最近この病気のせいでわちゃわちゃしてたから、今回は上手くいかないと思ってたけど、寧ろ一番調子がいい気がする。




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