第3話 家にて

 何だったんだろう、今日の成岡さん。いつもとまるで違ったけど…

 あんなに人に甘えてくる人じゃなかったと思うんだけどなぁ。


 僕は電車の中で座りながらそんな事を考えていた。

 でも悪くなかった…というか心地よかった。成岡さんの近くにいると安心するというか何かが緩む気がする。


 そうこう考えてるうちに電車が家の最寄り駅についた。

 僕は電車を降り、そこからは歩いて家まで帰る。


 しかし本当にどうしたんだろう。あんなことを言い出すのは今日で二回目だ…いや最初のはきっと怖かっただろうしきっとパニックになってたんだろう。

 だからそれはいいとしても今回はなぜだ?僕が撫でられるのを恥ずかしがっていたから揶揄っただけか?いや、それだったら嘘だと言って僕の反応を楽しむはずだ。じゃあ何だ?もしかして………


 僕に撫でてほしかったから?

 じゃあなんで僕に撫でてほしかったんだ?


 しばらく考えても何も思い浮かばなかった。


「あれ?」


 もう家の前についていた。いつもならもっと時間がかかるはずなのに。そう思いスマホを取り出し時間を確認するがいつもと変わらない時間だった。


「考え事をしてると時間の流れが早く感じるのか…」


 そう言いながら家のドアを開けた。


「ただいまー」


 靴を脱ぎながら家の奥に向かって言うと二階から足音が聞こえてきた。ものすごい速さでこっちに来る。そう思ったら妹の姿が見えた。…と思ったら一瞬で僕に飛びついてきた。ドアは閉めてあったので僕は背中と頭を打った。これくらいは日常茶飯事なのでなんてことはない。


「おかえり、お兄ちゃん。夕飯できてるから一緒に食べよ?」


「ああ、ただいま。ありがとう。着替えてくるから少し待っててもらってもいい?」


「いいよ。お兄ちゃんと一緒にご飯を食べられるなら何時間でも待ってあげるよ!」


「そんなに待たなくても…数分で終わるよ。あと離れて?」


「じゃあ待ってるね!」


 そういってすぐダイニングルームの方へ走っていった

 あいつは今田いまだ未悠みゆう。僕の妹で中学二年生だ。

 いつも元気で、運動・勉強ともに僕より優秀。料理も上手くてなにより可愛い。僕の自慢の妹だ。成岡さんとは違う太陽のような存在だ。誰にでも明るく笑顔で振る舞っているため、学校では何人もの男子を勘違いさせてきた。

 だが僕には滅茶苦茶甘えてくる。いわゆるブラコンだ。さっきみたいに帰ってきたらすぐ飛びついてくるし、毎晩僕の部屋に勝手に入って「一緒にねよー?」なんて言ってくる。毎回一度は拒否してるが駄々をこねるので結局毎日一緒に寝ている。

 ………大丈夫だ。流石に実の妹に手は出さない。


 着替えが終わり、僕はダイニングに向かった。


 ◆


 そうして特に何事もなく二人で夕食を食べ、順番に風呂に入り、各自の部屋に戻った。

 僕は今日の授業の復習と明日の予習をしていた。

 僕の学力は通ってる学校の平均とは言っても、普通の学校のトップ十位以内には入る普通に良い方だ。


 復習が終わり予習に取り掛かろうと思っていたときに突然スマホから着信音が鳴り出した。


「だれだろう…」


 スマホを取って画面を見ると「成岡美希」と書いてあった。こんな時間に何の用だろう。

 考えながらも僕は応答のボタンを押した。


「はい」


『今田君?』


「そうだけど、こんな時間にどうしたの?」


『今日話した君に勉強を教えるって件』


 ああ、なるほど


「ああ、そのことか。どうする?僕はそっちの予定に合わせるけど」


『じゃあ今週の土曜日なんかどう?』


「わかった。土曜日ね。場所はどうする?」


『そうだね…ファミレスもいいけど人がたくさんいて気が散るしな…』


 たしかにそうだな、どうしようか………あ、


「…じゃあうちに来る?」


『…え?』


「だから僕の家に勉強を教えに来てもらえないかなと」


『別に聞こえなかったわけじゃないけど、いいの?親御さんとか』


「それは大丈夫だよ。土曜日も勤めに出てるから。」


『時間は午後からでいい?』


「いや、できればたくさん教えてほしいから午前中から、できれば九時頃からいてくれたら嬉しいんだけど」


『………』


 急に黙ってしまった


「…どうした?」


『…なんでもない。ていうかいいの?午前中からお邪魔させてもらって。お昼ご飯とか持っていかないと?』


「そっちが大丈夫ならご飯に関しては僕がつくるから大丈夫だよ。」


『え?今田君って料理できたの?』


「なんでそんな驚いてんの?」


『だってできないと思ってたから』


 僕はそんなふうに思われていたのか…


「ひどいな」


『ごめんね。全くイメージがなかったから』


「まあいいや。じゃあそういうことでいい?」


『そういえば私君の家の場所知らない』


 そういえば


「そういえば教えてなかったね。じゃあ駅待ち合わせでいい?」


『わかった。そうしよ』


「オッケー。土曜日の午前九時から僕の家で集合は…八時三十分くらいでいい?」


『うん。わかった。じゃあね』


「じゃあね」


 電話を切った


「さて、予習でもするか。ってもうこんな時間か」


 時計の方を見ると短い針は十一を指していた。


「軽く教科書だけ見て寝るか。」


 軽い予習を済ませてトイレに行ってから寝ようとすると案の定妹が僕のベッドに潜り込んでいた。


「おい、そこはお前のベッドじゃないぞ。未悠。お前の寝る場所はきちんと別にあるだろ?だからそこをどいてくれ。」


「えーなんで?いいじゃん一緒に寝ようよ」


「だーめ。もう一人で寝れるでしょ。」


「でもお兄ちゃんと寝るほうがいいんだもん。温かいし安心するし。だから一緒に寝るの!」


 いつもと変わらない駄々のこね方だ。


「まったくしょうがないなわかったよ。一緒に寝よう。」


「本当に?やったー!」


 本当に嬉しそうな笑顔をしている。結局毎回断れないんだよな。


「はいはい、もう少し詰めて」


「ふふっ、お兄ちゃんといっしょに寝れる」


 …かわいいなぁもう!


 僕は電気を消し、布団に入った。小さな寝息が聞こえる。もう寝たのか。


 僕は妹の頭に手を置き、そっと目を閉じ、眠りについた。

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