第2話 学校にて

「ねえ、今田君。」


 午前の授業が終わり、昼休みに成岡さんが話しかけてきた。


「何?」


「今田君は勉強どのくらいできるの?」


「平均くらいだよ。」


 僕の通っている学校は、この辺で一番偏差値が高い公立の高校だ。勉強は結構できる方だと思っていた。中学では何度か定期テストで学年で約一六〇人いる中で一位を取ったことがあるくらいだ。

 しかしこの学校ではそれが平均になってる。

 そんな中でも成岡さんは勉強に関して一線を画していて、入学直後にあるテストでは五教科全て満点をとり、二〇〇人もの生徒がいる中で学年一位をとった。

 ちなみに僕は八七位だった。


「ふーん、そうなの。」


「なんだよ、」


「いや、別に何でも。」


「それを言うのは絶対に何かあるときだ。何があるんだ、言え。」


 そんな事言われたら気になってしまうだろうが!


「ただ、今田君が勉強ができない人だったら私が教えてあげようと思ってただけだけど平均なら大丈夫そうかな。」


「え?教えてくれるの?」


「私は構わないけど。」


「いいの?じゃあお願いしたい。」


 平均ならいいやと思いつつも折角ここに来たんだからもっと高みを目指すのもアリだなと思っていたが何せ内容が鬼のように難しいのでありがたい。


「あら?それが人に頼むときのことば遣いかしら?」


「成岡美希様!どうか、どうかこの私めに勉強をお教えいただけないでしょうか!」


「ちょっと引くかも。」


「ひどくないか?!おまえが言ったんだろ?」


「それにしてもやり過ぎだよ。」


「...ごめんなさい。」


「謝れて偉いね。よしよし」


「子供扱いすんな!」


 頭を撫でてきたので振り払うと「残念」と全然残念そうには思えないような笑みを浮かべながら言ってきた。


「可愛かったのに。」


「うるせぇ!」


「本当だよ。顔を赤くしてて」


「……」


「怒っちゃった?」


「……」


「しょうがないなぁ。」


 と、少し顔を赤くしながら


「私の頭を撫でてもいいよ?」


「?!」


 突然そんな事を言ってきたので心臓が止まるかと思った。こんな事を言われるのは二度目だが恥ずかしい。あっちは言ってて恥ずかしくないのか?


「いや、ここじゃ皆いるし…」


 昼休みということもあって、この会話は喧騒にかき消されて皆には聞こえてないと思うが(ちなみに成岡さんは僕の隣の席だ)流石に頭を撫でるとなると皆の注目が集まってしまう。


「じゃあ皆がいなければいいの?」


「それならいいけど…」


「本当に?」


 顔がぱぁっと明るくなった。ズルいぞ!あんなことされたら誰だって逆らえないだろ!


「…うん、まあ、」


「じゃあ放課後ここに残ってくれる?」


「ああ…うん、わかった。」


「約束だよ!」


 氷姫とはかけ離れた明るい笑顔を僕に向けた。


「あ、そうだ、私ちょっと委員会の仕事があるから行くね。」


「そうか、いってらっしゃい。」


 そう言い、彼女は教室から出ていった。


 ◆


 美希side


 ああもう、なんてこと言ってんの、バカバカバカ!そんなことしたら嫌がられて嫌われちゃうかもしれないのに。最初に話したときだって少しびっくりしてたし…もう!だってしょうがないじゃない、優しいんだもん!助けてくれたんだもん!!かっこよかったんだもん!!!…ああもう、なんであんなことしたんだろう…わかんない!!


 トイレの個室でうなだれてるとすでに昼休みの終了時刻になっていた。まずい、戻らないと!


 なんとか授業が始まるまでに席につけた。

 肝心の今田君は余裕そうにラノベを読んでいたがこっちに気づいたようで、「委員会は終わったの?」と本をバッグにしまいながら私に聞いてきた。彼に話しかけられてドキッとした。もう!落ち着け私!

 私が何をしているのか不思議に思ったみたいで「どうしたの?」と不思議そうな顔をしていた。私は「ううん、何でも。それよりもうすぐ授業始まるよ。」と今田君の気をそらした。


 午後の授業中はずっと今田君のことが気になってあまり集中できなかった。幸い、先生に指名されることはなかったが。帰ったらこの範囲をしっかり復習しなきゃ。


 ◆


 ついに放課後になってしまった。

 今からでもやっぱりいいと言おうか。いやいや、もうここまで来てしまったんだ。存分に今田君の手を堪能しようじゃないか。


 この高校は進学校でありながら部活にも熱心に取り組んでおり、生徒の九割が何かしらの部活動に所属していて、放課後はその活動に精を出しているため、その時間の教室は人がいない。私も今田君も部活動には所属していないので放課後は基本暇だ。


 ついに教室には私と今田君の二人きりになってしまった。


「…じゃあ、もう少しこっちに来て。」


 ああ、今田君の優しい声だけが聞こえる。


「うん…」


 そう言いながら今田君の近くに寄った。顔が赤くなるのが自分でもわかる。

 数秒後、彼の大きな手が私の頭に触れ、優しく撫でてくれた。ふと今田君の方を見ると彼も顔を真っ赤にしていた。可愛い。

 ああ、この時間がずっと続いてくれたらいいのに…


 しばらくして頭から手が離れた。どのくらい時間が経ったんだろう。一時間も経った気がするけど一分しか経ってないような気もする。


「…終わり?」


「…ごめん。ずっとこうしてると俺が持たない。」


「そう。ありがとう。私の我儘を聞いてくれて。」


「いいよ、大丈夫。友達でしょ?」


「うん。そうだね。」


「続きはまた今度してあげる。」


 え?続き?またしてくれるの?


「またしてくれるの?」


「…やべ、やっぱ今の無しで。」


 無しになった。ちょっと期待したのに。


「じゃあ僕はそろそろ帰るね。」


「うん、じゃあね。」


 そう言って今田君は教室を出ていった。




 私は教室でただ一人、黙って自分の席に座っていた。



 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ※これは深夜テンションで書いたので内容が少々ぶっ飛んでます。

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