クラスの氷姫を助けたら僕にだけ甘えてくるようになった
おおにししの
第1話 氷姫を助けたら…
「ということで健人君。今からあなたのお家に行きます。」
七月のある日の放課後、僕はそんなことを言われた。
「ということでってなんだよ、美希。決定事項みたいに言いやがって。僕に拒否権はないのか?」
「いいじゃない、どうせ暇でしょう?この前のお礼をしたいの。」
そう言ったのは
一切染めていない艶のある真っ直ぐな長い髪。整った眉とその下にある長い睫毛、くっきりとした二重の瞼。綺麗な鼻筋、桜色の唇、透き通るような白い肌。誰が見ても美人と思うような顔立ちをしている。女の子らしい華奢な体をしているがそれでいてスタイルもいい。成績優秀、運動神経抜群。完全無欠とは彼女のためにある言葉なのではないかとさえ思えてくる。
当然、男子に声をかけられることも多く、入学初日から3人に告白されたがそれを全部断ったらしい。鋭い目つきも相まってそう呼ばれているのだろう。
「……まあいいけど。」
「じゃあ行きましょ。」
腕を捕まれ強引に連れて行かれる僕は渋々了解した。
なぜ僕が氷姫に絡まれているかというと...
◆
「まだ五月なのにクソ暑いな」
僕は電車で学校に通っている。中学までは徒歩だったので最初は違和感があったが、一ヶ月ほど経ち、徐々に慣れてきた頃だった。
いつも通り駅のホームに降り電車を待っていた僕の目にあるものが写った。クラスメイトの氷姫、成岡さんだ。いつもいることは知っていたが、一回も話したことはない。だけど、今日は少し様子が違った。
「ナンパだ。」
二十歳くらいのチャラい二人組の男が成岡さんに詰め寄っている。ナンパだ。普段あまり表情を表に出さない彼女も今日は困ったような顔をしているが、誰も助けようとはしない。
「はぁ、ホント大変そうだな。」
そうつぶやきながら少し駆け足でそこへ向かい、
「ごめん美希、待った?待ったよね、本当にごめんね。」
急に話しかけられた彼女は一瞬ビックリしたような顔を見せたが、すぐ言葉の意図に気づいたようで
「あら、今田君。全然、大丈夫よ。」
と顔をいつもの表情に戻して言った。
「本当?よかった。ところでその人達は?知り合い?」
「いいえ、全く知らない人。話しかけられて困ってるのよ。」
「へぇ。ですってよ、お兄さんたち。」
僕は二人組のほうを見ながらからかうように言った
「ちっ、行こうぜ。」
片方がそう言いながら僕たちから離れていった。それにもう片方もついて行った。
「ふぅ、なんとかなったな。あ、ごめんなさい!急に馴れ馴れしく下の名前で呼んでしまって、」
「………」
「もしかして、怒ってます?」
「……」
「あの」
「ゔ、うえ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ん゙!ごわがっだよぉ゙ぉ」
「!?」
急に泣きながら抱きついてきた。あぁ、女の子のいい匂いがする...じゃなくて。え?成岡さんってこんなに感情を表に出す人だったっけ?とてもじゃないけど氷姫と呼ばれているとは思えない。
「ど、どうしたんですか?急に」
驚いた僕は彼女にそう聞いた。
「だって…怖かったんだもん…変な人達に…話し…話しかけられて…それで…なんにも…喋れなくて…そしたらどんどん…話が進んで…でも…今田君が…助けてくれて…助けに来てくれた…ときは…泣き出しそうだったけど…我慢して…頑張っていつも通りに振る舞ってたの……でも…あの人達がいなくなって…安心したら…泣けてきて…ごめんなさい急に抱きついてしまって」
と泣きながら言ってきて、氷姫にもこんな一面があるんだなと思った。
「いえ、そんな、謝らないでください。むしろこっちが謝る方ですよ。話したこともないのに名前で読んでしまって。」
深く頭を下げた
「別にいいんです。あの人達を追い払うためだってことはわかっていますから。」
よかった。ちゃんと意図は伝わっていた。一安心。だが、
「いえ、それではこっちの気が収まりません。何かお詫びをさせてください。」
「でも」
「なんでもいいんです。なにかさせてください。」
「わかりました。」
よし、押し切った。
「じゃあ」
上目遣いで、僕の服を指で掴みながら顔を真っ赤にして言ってきたのでこっちも緊張してきた。この人綺麗系だと思っていたけど、こんな可愛い仕草もできたんだ。
「は、はい!」
緊張で何故か返事をしてしまった。
「あ、あたまを、頭を撫でてください。」
ああ、頭ね。はいはい。って、え?
「え?ごめん、今なんて言った?」
「だから、私の頭を撫でてください。よしよししてください。学校につくまで。」
聞き間違いじゃないよな。頭?撫でる?俺が?成岡さんの?あの氷姫の?しかも学校につくまでだって?
「い、いや流石にそれは」
「じゃあ電車の中だけでいいです。」
「いや、そういう問題じゃないんですよ。」
「じゃあどういう問題なんですか?」
「頭を撫でるのはちょっと」
流石にそれは恥ずかしかった。
「なんでもいいって言ったじゃないですか。」
「……」
言ってたな。言ってしまってたな。
「男に二言はないんですよね?」
それを言われたら何も言い返せない。
「でもいや、わかりました。」
どうやら押し切ったつもりだったがこっちが押されてしまった。
「それでいいんです。」
なぜかドヤ顔で上から目線で言ってきた。さっきまでは上目遣いだったのに。
そう思っていると電車がホームに到着した。
「じゃあ、乗ろうか。」
「はいっ!」
やけに嬉しそうだな。そんなに頭を撫でられるのが好きなのか?とてもそうとは思えないけど。人は見た目と噂で判断しちゃだめだな。
丁度席が二つ並んで空いていたので僕たちはそこに座った。
「ではお願いします。」
「わかりました。では」
恐る恐る彼女の頭に手を置いて、髪を崩さないようにそっと手を動かした。
「これで大丈夫ですか?」
「はいっ。これを降りるまで続けてください。」
とニコニコの笑顔でこっちを見てきた。こんなの断れるはずがないじゃないか。
◆
このあとは何事もなく(電車内でやけに視線を感じたが気のせいだと信じよう。)学校の最寄りの駅に着き、僕のお詫びは終了した。手を離したときは少し残念そうな顔をしていた彼女だったが、満足はしたみたいで何よりだった。一応、その後も学校には一緒に歩いて向かった。
「あの。」
「今度はなんですか?!」
学校へ向かっている最中、突然彼女が話しかけてきた。話しかけられるとは思っていなかったのでびっくりした。
「っ今日会ったのもなにかの縁ですし、友達になりませんか?」
僕の声に少しびっくりしたようで、少し言葉をつまらせたが、なんだ、そういうことか。
「ああいいですね、そうしましょう。クラスも一緒ですし。」
「あ、あと一緒に登校もしませんか?」
「そうですね。駅で待ち合わせにしましょう。」
「はいっ!」
こうして僕は学年一の美女で氷姫の成岡美希と毎日一緒に登校することになった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
<あとがき>
この作品を読んでいただき、ありがとうございます。このお話が初めて書くものですので、お手柔らかにお願いします。⭐や❤、コメントが励みになりますので気に入ってくださったらぜひぜひお願いします。読んだ感想もたくさんください。
ありがとうございました。
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