小ネタ 桐生が中学生の頃



 中学時代、僕は大型犬と戦っていた。



 戦いの相手は、広そうなおうちのわんこ、ゴールデンレトリバー。

 室内と庭を行き来できる犬用通路があるらしく、夜でもよく外にいてくれる。




 ゴールデンレトリバーって…温厚な犬のはずだったよね…!?




 わん!わん!わん!!わんっ!!




 ものすごく吠えてる…!!

 お願い、そんなに吠えないで!ご家族に気づかれちゃうでしょ?

 すぐ終わらせるから、すぐだから!!




 ぐるるるるる……!




 ひいい、超威嚇されてる!

 怖いよ、君じゃなくて僕のが怖いよ!

 一瞬だけ我慢して、わんちゃんお願い…!




「えいっ!」




 がぶっ。




 --- 次の日 中学生桐生の登校時 ---




「あれ、小宮山くん。

 腕の包帯どうしたの?」



「犬を撫でようとしたら、噛まれちゃってね…」




 すごく痛い。けど、勝った。

 自分の傷は癒せないんだ。わんちゃん手加減してよ、お願い。




「ペットショップから、試供品のフードとかもらえないかな…」



「あれ、小宮山、犬飼うの?」



「ううん。自分の命を守るため」



「はあ!?ドッグフード食べるのかよ小宮山!?」



「食べないよ!?」




 誰にも言えない自分の秘密。

 この体はヴァンパイア体質で、月に一回は吸血衝動に襲われるということ。

 何があっても人間から血を吸うなんてしたくないから、あの手この手で毎月回避しているけれど。



 来月は、公園のハトさんに協力してもらおうかな。

 ん?ハトさんって、夜はどこにいるんだっけ?




 ただ生きる、それだけが厳しい現実の中。

 僕には夢があった。



 教師になりたい。

 わからないことだらけで放置された僕のような子がいたら、導いてあげたい。

 もし、同じ体質の子に出会ったら、頑張ったね、って褒めてあげたい。

 教えたい。伝えたい。いろんなことを。

 生きるってつらいことが多いけど、それでも幸せに満ちているんだよ、と。




「…はあ」


 毎月一回の生理現象に悩む自分の姿は、女の子みたいだ。

 いや、女の子は、きっともっと大変だろう。

 そうかな、と思う子には、さりげなく優しくしてあげなくちゃ。




 穏やかで優しくて、誰かのことばかり思うお人好しの桐生は、中学生のころから変わっていない。

 自分の境遇を嘆くことなく、健やかにたくましく生きて育った。




 彼の境遇が、想像よりも過酷であることは、今はまだ秘密。





小ネタおわり

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