第8話:未来日記
佳奈との新たな関係が始まったその日の夕方、俺は深呼吸をして、千紗の日記の最後のページを開いた。
そこには、これまでとは違う千紗の筆跡で、こう書かれていた。
『こーちゃんへ
もしかしたら、この日記を最後まで読んでくれたのかな。ありがとう。
この日記には、私たちの大切な思い出がたくさん詰まっているよ。
こーちゃん、私はもういないかもしれない。でも、こーちゃんはまだここにいる。だから、前を向いて歩いていって。
佳奈ちゃんも、将人くんも、みんながこーちゃんのことを想ってる。
こーちゃんには幸せになってほしい。私の分まで、たくさんの思い出を作ってね。
そして、時々私のことを思い出してくれたら嬉しいな。
最後に...ずっと言えなかったけど、私、こーちゃんのことが大好きだよ。
さようなら。そして、ありがとう。
千紗より』
俺は、声を上げて泣いた。全ての謎が解けた瞬間だった。千紗は、最後まで俺たちのことを考えていてくれたんだ。
涙を拭いながら、俺は何かを思い出したように目を見開いた。
「ちー…そっか。お前がそういうなら…」
俺の中で、ぼんやりとした記憶が蘇ってきた。千紗と過ごした日々、彼女が何かを必死に伝えようとしていた様子。そして、俺がそれを完全には理解できていなかったこと。
「ちー、ありがとう。俺、必ず幸せになるから」
窓から差し込む夕日が、優しく俺を包み込んだ。まるで千紗が微笑んでいるかのように。
俺は佳奈に電話をかけた。声が震えていた。
「佳奈、今話せるか?」
「え?うん、大丈夫だけど…どうしたの?」
「千紗の日記…最後のページを読んだんだ。そして、何か大切なことを思い出した気がする」
「…!」
佳奈の息を呑む音が聞こえた。
「明日、一緒に美佐江さんのところに行ってもいいかな。全部話したいんだ」
「うん、わかった。一緒に行こう」
電話を切ると、俺は再び日記を手に取った。千紗の最後の言葉が、まだ頭の中で響いていた。
「前を向いて歩いていく」か。
俺は窓の外を見た。夕焼けに染まった空が、新しい明日への希望を感じさせた。
初めて千紗と出会った幼稚園の頃、高校に入学した時の喜び、そして去年の夏の悲劇。全てが鮮明によみがえってくる。
そして今、佳奈との新しい関係が始まろうとしている。千紗の想いを胸に、俺たちの新しい一歩が始まろうとしていた。
部屋の中には、初夏の風が静かに流れ込んでいた。明日への期待と、過去への感謝。相反する感情が、俺の中で静かにうねっている。
千紗の日記を胸に抱きしめながら、俺は明日への準備を始めた。美佐江さんに会い、そして佳奈と共に新しい道を歩み始める。それが、千紗への最高の感謝になるはずだ。
そして、この不思議な日記の真実を探る旅が、ここから始まるのかもしれない。千紗が残してくれた未来からの贈り物。その意味を、俺たちはこれから解き明かしていくんだ。
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