Chapter6♡



@チャペル。シノアとあなたの結婚式。


 ――リンゴーン

 ――リンゴーン

 遠くで鐘の音。


 控え室の2人。


「まさか……

 こんな日がくるなんて……」



 王族としての気品さはあるが、喜びを隠せずにいるシノアの声。



「あなたが、暗殺されたと思われていた隣の国の王子様で。

 命からがら逃げ切ったところを、私がお助けして。

 記憶を失っていたあなたは、そうとは知らず私の騎士に――


 私、あなたに色々と失礼なことをしてしまいましたね……。


『そんなことはない』?


 そうでしょうか……


 そ、そのほらっ……、れ、例の……夢のっ……!」



 冷静さを保っていられず、夢と同じ口調になるシノア。



「だってまさか!

 お父さまが王宮中を探していたのは、私が見つけて持ったままだったあの古文書で……!


 お父さまの目的は、そこに書かれてあった魔術だったなんて!


 しかも――

 私の読み間違いで、あの魔術は、

 【夢で想い人に会える魔術】ではなく、

 【真実の愛を抱いた2人が、夢で出会える魔術】だったなんて……!


 そ、それでお父さまは、あの公爵令息が、本当に私の運命の相手かを確かめるために、魔術を探していて……!


 でも、おかげでお父さまも納得……どころか、大歓迎してくれましたわ。


  暗殺されかけて、なんとか自力で逃げ出したあなたは……まごうことなき、王子の身分。隣国の王も認めてくれました。あなたを殺そうとした派閥……正確には、始末し損ねて、『暗殺したことにした』として、権力争いで有利になろうとした悪い人たち。


 彼らは、処罰されたそうです。

 それでもあなたは――

 国に戻らず、私のそばにいてくれると言ってくれた……。


 お父さまは、そんなあなたの忠誠に……いいえ、愛情に感銘を受けてらっしゃいました。


 ――あなたが私の運命の相手であり、しかも、卑怯な相手にも負けないほど強く、そして何より……誠実で、素晴らしい男性だって。あなたになら『シノアを任せられる』って。


 あんなに誰かのことを褒めているお父さまのこと、初めて見ました。



 え、えっと……。

 それで、あのっ――

 再度確認しますが、

 ゆ、夢でのこと……、しっかりと覚えて?


 ……いますよねっ!? そうですよねっっっ!?!? 


 もうっ!

 なんでもっと早く言ってくれなかったんですかっ!

 知っていたら、私、私っ……!


 う、うぅっ……!

 分かっています、悪いのはぜんぶ私です……。

 魔術を使ったのも、あなたを魔術に巻き込んだのも。


 そ、そのぉ……

 夢で、あなたに『ふしだら』なことをしたのもっ……!


 え、ええっ!?

『嬉しかった、2人で過ごせて幸せだった』

 ですって!?


 そ、そんなっ……それは……っ、それは、う、嬉しすぎるじゃ……ありませんか……。


 それに……。

 2人で過ごすというのなら――これからは、ずっと一緒なのですから……」



 はぁ、と恍惚のため息を漏らすシノア。



「あなたの結婚衣装。とても凜々しくて似合っています。


 え?

 私のウェディングドレスも似合っていますか……?


 きっ、

 『綺麗で可愛い』!?!?


 やめてくださいやめてくださいっ――!

 家族や臣下、国民の前では、冷静で物静かな王女で通ってるんですからっ……!


 こんな、真っ赤な顔して式には出られませんっっ……!


 ――ひゃんっ!?

 そんな、急に抱きしめて……!?」



 我慢できなくなり、シノアを抱きしめるあなた。



「い、いけませんよっ!?

 式の前です――2人きりとはいえ、こんな『ふしだらな』……。


 あ、ぅ……。

 ……ふふっ。


 そうですね。私たちにとっては、今さらですね。


 ……ああ。

 あなたの腕に抱かれるのは、本当に心地良いです。

 まるで夢みたい……。


 ――って、夢じゃないですよね、コレ?


 え?

『夢かどうか、確かめてみるか』

 ですって?


 もうっ、イジワル。

 さすがにこれは現実です。夢みたいに、いいえ、夢よりも幸せだと感じているのです。


 ――――。

 また、そんなに見つめて。

 わ、私だって、負けませんからね?


 知ってるんですよ、私が見つめると、あなたも照れること……!

 仕返ししちゃいますから!


 さあ、こっちを見てください。

 抱きしめながら、私のことを……


 じーーーーっ…………。



 …………。

 ふふっ。

 やっぱり赤くなった。


 …………。

 式より少し早いですが、したくなっちゃいました。


 お願いしても……いいですか?

 キス――。誓いの、キス。


 …………んっ……」



 目を閉じるシノアに、優しく口づけ。

 ――チュッ



「んっ、ちゅっ、ちゅっ……♡


 ふ、ふふっ……。

 また、しちゃいましたね、ふしだらなこと♡


 はしたなくて、自分勝手で、自分の心に従って……。

 

 嫌いですか、こんな私のこと?


 ふふっ。

 私も好きです。大好き。愛しています……っ。

 生涯、あなただけを……。 



 これからは毎日、お付き合いしてもらいますからね?

 ふしだらなこと……♡


 私たちには領地も与えられて、2人でがんばっていかなきゃいけないんですから。


 そ、それに……いずれは、その……跡継ぎも……。

 こ、子どもも……ですね……っ。


 き、気が早いって!?

 分かってますってば! もうっっ!


 あぁあ、もうダメです、全身が熱くてたまりません……!

 でも、抱きしめるの、やめないでください――


 夢でも、現実でも。


 もう一度、口づけも……」



 ――ちゅっ、ちゅむっ、ちゅぷっ♡



「あ、ん……っ♡

 あなたとのキス、病みつきになってしまいそうです♡」



 ――リンゴーン

 ――リンゴーン

 大きくなる鐘の音。



「……もう2人きりで誓っちゃいましたけど。

 そろそろいきましょう。


 これから、私たちは、王女と騎士ではなく……

 夫婦になりにいくのです。


 ずっとずっと。幸せになりましょうね♡」

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