Chapter4♡

@夢の中


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっっっ!!


 昼間はあんな態度をとって、

 ほんっっっとうに、ごめんなさいっっ!!


 あなたの前で顔がニヤけそうになるのを我慢していたり、夜会が本当に憂鬱だったりで……


 というか、近衛騎士を馬車の中に乗せるなんて、本当は変なんですからね!? 執事に変な疑いをかけられないよう、ドキドキもしていたんです……!


 ああもうっ、

 馬車の時間は本当に――っっ、

 前を向けばあなたが座っているし!

 

 乗せたのは私ですけど!?

 それはそうなんですけど!


 だって、だって……。


 夜会で、会いたくもない令息の方々と挨拶を交わす必要があって……、あなたと過ごすより、他の男性と過ごす時間のほうが長いなんて、嫌じゃないですか!?!?


 帰りの車内はぼんやりとした明かりでしたけれど、

 その中でもあなたの顔が、今みたいに目の前にあって……


 うううっ……!

 今日会った男性のこと、全部忘れるくらいに幸せな時間だったんです――っっ!



 あ、あなたはどうでした……か? 


 えっ

『ずっとドギマギして、仕事を忘れないよう苦労していた』

 のですか!?


 あなたも!?


 も、もうっ!

 もうもうっ……!

 ああ、これが本物のあなただったら、

 夢じゃなく、現実だったらどんなにいいことか……!


 ……はぁ。

 なんて、夢を見てもしょうがありませんね。


 でも、こっちのこれは、夢ですから!

 さあ、昨日のようにそこに座ってください」



 ――ギシッ

 ベッドの軋む音。

 シノアの声が目の前、すぐ近くから聞こえてくる。



「今日は不覚にも、現実でも『ふしだら』な振る舞いをしていまいましたが――


 ほ、本当に、

 本当の本当にしたかったこと、してもいいですか!?


 いえ、絶対ダメなんですけど!

 王女というか、乙女として絶対にいけないことをしようと思っているのですが!



 ……よ、よいですか?  


 私、これから――

 ベッドに座っているあなたに、抱きつこうと思っています!


 抱きついて、膝の上に乗って……

 だっこ!


 してもらおうと思っていますっっっっ!!



 ふ、ふしだらすぎますよね……。



 っっっ!?!?

 よいのですか!?


 うぅ……

 本当に……?

 本当にしちゃって、いいんですか……?



 い、いざとなると、

 アレですね……


 足がガクガクして、頭がクラクラしてくるのですが……?


 い、いいんですね?

 しちゃいますからねっ!?


 重いですよ、重いし、その……

 こんなネグリジェ姿ですしっ!


 い、色々と……当たってしまったらごめんなさい!

 先に謝っておきます!



『いいから早く、焦らされるとこっちも頭がどうにかなりそうだ』

 ――ですかっ? 

 

 わ、分かりましたっ!

 後悔しないでくださいね!?

 軽蔑しないでくださいねっ!?


 ま、まずこうして腕を伸ばして……

 あなたの首に抱きついて、


 うう、あなたの太ももの上に……

 の、乗っちゃいますっっっ!」



 ――ふにょんっっ

 胸から太ももにかけて、シノアの柔らかな感触が当たる。



「ふ、ぁああああああっっ!?


 ダメですよねこれ、ダメですよねこれっっ!?

 何だか、本気でいけないこと、しちゃってますよねっ!?


 えっ!?

 あなたからも、


『抱きしめたくて、たまらなくなった』

 

 のですか!?

 そんなふしだらなことを!?

 本当に!?


 男性を抱きしめるのだって、抱きしめられるのだって初めてなのに――!


 ふーーっ、はーーーっ、ふーーーっ、はーーーーッ!」



 シノアの切羽詰まった深呼吸が、すぐ耳元で聞こえる。



「う、うううっ!

 ど、どうぞっ!


 私だって、こんなふしだらなことをしてるんですから!

 幻とはいえ、あなたにもその権利はありますっ!


 その逞しい腕で、私のことをギュッて――

 し、してくださいっ!


 きゃん――ッ!?


 あ、あ、いえ!

 痛くなんてありません!

 ちょうどいいです!


 で、でもでも、あなたの腕に抱きしめられて、声を出さずになんて……いられるワケないじゃないですかっ!?


 あ、あぅう……。

 あったかいです。そして力強い……。

 なのに優しくて、胸板なんて、こんなに硬くて。

 私とは大違い……。


 ――って、アレ?


 なにか、その、硬いモノが……?


 あなたの、これはなんですか?」



 ――チャリっ

 やや身を離したシノアは、あなたが首からさげていたネックレスに気づく。



「これ、あなたがいつもしているネックレスなんですか?


 先に銀の指輪が……。

 え?

 倒れていたとき、これだけを持っていた、と?


 あなたは確か、私と会うまでの記憶が――7歳より前の記憶を、忘れているのでしたよね……。ではこれは、あなたとご家族とを結ぶ、唯一の品なのですね。


 あなたのご家族、どんな方なのでしょう。

 ……実は、当時もあの近辺を探してもらったのですが……。


 ……ええ。

 きっとご無事ですよ。


 会いたいですか?


 え?

『今は家族より、もっとそばに付いていたい人がいる』?


 ちょ、ちょっと!? 

 そんなに見つめないでくださいってば!

 もうぅっ!!


 いいですよ!

 あなたが私の顔を見つめられないように、もっとギューって、しちゃうんですから! えいっ!」



 またも密着してくる。

 右耳に触れるほどの位置で声がする。


「どうですかっ!?

 あなたも、この『ふしだら』には参ってましたよね、さっきも!


 私のそばにいたいだなんて――

 そんな、ふしだら過ぎることを言うあなたには……っ!


 もっとギューって、ぎゅーっっっっ、って、しちゃうんですから!

 今夜は離しませんからね!?


 あ、あんっ!?

 

 ふしだら返しは卑怯ですっ!?

 強く抱きしめないでくださいっ!


 心臓の音が伝わっちゃうじゃないですかぁっ!

 ん~~~~っっ!

 もうもうっ!


 ――ええっ!?


『夜会で他の男性と会っているのに嫉妬していた』っ!?!?


 う、嬉しすぎること、言わないでくださいっ!

 畳みかけないでください! 卑怯ですっ! 卑怯者っっ!


 私も卑怯ですけど――っ!?

 卑怯で、ふしだらですけども……っっっ!


 こうなったら、ふしだらなこと、朝までやめませんからねっ!?

 一緒に、ふしだら抱っこに付き合ってもらいます!


 覚悟してくださいねっっ!


 ぎゅーーーーっ!

 ぎゅぅううううっっっ~~~!


 あああ、もうっっ!

 お嫁にいけませんっ!


 幸せすぎてっ、

 結婚なんて、あなた以外とは無理……!

 無理になっちゃいますぅ……っ!


 せ、責任……取ってくださいねっ!

 

 まだまだいきますよ!?

 ぎゅうっ! ぎゅ~~~~っっっ……!


 ひゃうんっ!?

 ま、負けませんからっ!


 んんんっっ!

 ぎゅぅうううううっっ…………!


 あ、あうあうっ……!?

 はうっ、はぅうっ~~!?


 もうダメっ、

 ダメですっ……

 こんなんじゃ明日、足腰、

 立たなくなっちゃいますっ……!


 こんな近衛騎士、反則ですよっ!?

 あなたみたいにふしだらな騎士は、

 私以外に仕えることなんて、絶対許しませんっ!


 許しません、もう離しませんからっ!

 ぜっっったい、離しませんからねっ……!


 んんん、ぅううううう~~~~~~っっ!?


 はあっ、はあっ、はあっ……

 も、もうダメ、本当に動けません……

 全身ふにゃふにゃで、力が入りません……

 何なんですか、これぇ……っ


 こうなったらもう……

 あなたに抱きついたまま、朝まで過ごしちゃいます……


 いいですか?

 責任とってくださいね。


 離れないで……離さないで……

 ずっと、ずっと……」


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