Chapter3

@翌朝、王宮内の鍛錬場


 ――ブンッ、ブンッ

 昨夜のを振り払おうと、あなたは朝から剣の素振り中。


「――おはようございます。

 剣の素振りですか? 精が出ますね」


 簡易なドレス姿のシノアが声をかけてきた。


「私の護衛もせずにすみません――ですか?

 気にすることはありません。

 まさか、寝室の中でまで守ってもらうわけにはいきませんから」


 とは別人のような、淡々とした声。


「あたなに寝室にまで来てもらうなんて。

 そんな――

 そんな……正気を保っていられる自信が……


 い、いいえっ!? 何でもありませんよ!?


 コ、コホン。

  

 今日は、公爵家での夜会に参加します。

 近衛騎士であるあなたにも、当然付いて来てもらいます。

 いいですね。初任務、よく励むように――」



@移動中、馬車の中。


 ――ガラガラガラ

 馬車の中で、向かい合って座っている。


「……はあ。

 気が乗りませんね。


 社交界の場は、どうしても苦手です。

 これも王女としての立場上、仕方のないことですけれど。


 外交も内政も、そして結婚も政治のため……。

 このような恵まれた身分に生まれたのですから、

 覚悟はしているのですけれど。


 ――はい?


『なぜ自分が馬車の中にいるのか?』

 ですって?


 そうですね。

 普通は外で馬に乗り、周囲を警戒してもらうものでしょう。


 しかし、その役目は他の騎士にお願いをしてあります。

 ですからあなたは、馬車の中で警護をしてもらうのです。


 り、理由はちゃんとあるんですよ……!?



 かつて。

 隣国の幼い王子が暗殺されるという、痛ましい事件がありました。

 ちょうど、あなたと私が出会った頃のことです。


 国内の権力争い。

 その王子様は、変装し、ボロ馬車で密かに逃亡を図ったにもかかわらず、同乗していた者に裏切られ、殺されたのだそうです。


 生きていれば、私たちと同い年だったはずです。可哀想に……。


 と、いうことで。

 周囲の警戒も大事ですが、すぐそばで守っていただく必要もあるということです。


 え?


『自分のことは信用してくれているのか』って?


 ……あまり、うぬぼれないでください。


 あなたが私の近衛騎士として本当にふさわしいか、いまだ値踏みしている最中なのです。監視しているのです。


 それこそが、あなたを乗せている本当の理由です。

 私からの信任が厚いなどと、勝手に思わないでください。


 大体、無駄口は慎むように、と言ったはずです。

 ただでさえ気を遣う夜会の前だというのに……。


 国王陛下は、今日の夜会の参加者からも婚姻相手を探しているところ。私と相性のよい殿方を見繕うようにと――


 御者も務めている老執事に、言いつけてあるのですから。

 つまり、ただ遊びに行くのではなく、これは公務なのです。


 はあ……。

 よいですか? 


 こちらを見ることなく、窓の外を見ながら警戒を続けるように。


 いいですね――?」

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