盆の夜
和紙で出来た球体の照明が沈黙する和室。光は障子越しの月明かりだけ。
ささくれのない真新しい畳が10枚敷き詰められ、壁には大きな正方形の押し入れが一つある。部屋と家をつなぐのは襖でいかにもと言った和室となっている、おんぼろなエアコンに目を瞑ればだが。
そこに膨らんだ布団が長方形に4つ並んでいる。
その中心に明かりが一つ灯る。
「さて、根津のお父さんは11時には寝ろと言った。ただそれを守る義理はどこにもねえよなぁ!」
と、小声ながらに威勢のいい声を出したのは中くらいに膨らんだ布団にいる
「彰那さん、そんなことはないと思います」
中くらいの布団の隣の小さい大きさの布団から落ち着いた声で反論したのは
「櫻井、写真撮っていい?」
パジャマ姿の櫻井に理性が切れかけている私、
「根津、そういう所だよ」
「そうだったわ」
私の理性を一撃で蘇らせる言葉を放ったのが
「それはそうと、蓮薙、九条、写真撮っていい?」
普段見ない格好の3人を見て写真を撮らないのはもったいないと思った。
「根津、パジャマ姿の人にだれかれ構わずカメラを向けるのはやめようね」
「むぅ」
不服の意を示しつつ携帯を置く。これなら部屋に入る前に動画撮る状態にするんだった。そうしたらカメラ向けた時点で全員分のパジャマ姿をカメラに収めることができたのに。
「ま、そんな根津の邪な気持ちは置いておいて」
おっと?
「おっと? 私のどこに邪な気持ちがあったというのかな蓮薙クン」
そう言うと蓮薙はいたずら成功への道を着々と進ませ、得意気になっている子どもみたいな顔をしていった。
「普通に男子高校生が同世代の女の子にためらいもなくカメラを向けるかな?」
バカげた質問だ。
「ためらいもなくカメラを向けることにこそ、私が普通の男子高校生ではないということは明らかだろう。それこそ、愛して愛してやまないような人にだったら、こんなに軽々しくカメラを向けるはずがない」
蓮薙はにやにやしながら俺の話を静かに聞いている。
「それはつまり、友達の珍しい姿と、思い出を結び付けて写真を撮っておこうということに相違ないだろう。つまり、私の心の中に一切邪な気持ちはないと言える。そうだよな」
フッと、蓮薙は鼻で笑って言った。
「それじゃあ、なんで最初、あややだけに声をかけたのかな?」
「それは櫻井がここの中で圧倒的に可愛いから仕方がない」
即答した私。
ドン引きしている気配を感じる。
「根津さんとは一週間ほど顔を合わせたくないです」
そう言って布団にもぐる櫻井。
「ないわ。そういう所だって何回も言ってるのに直さない根津無いわ」
九条の諦念の混じった声。
「純粋なのか、バカなのか、本当に悪意がないのか分からない」
蓮薙は深刻そうな顔で悩んでいる。
「まあ、そんなことは置いておいて、せっかく起きているんだからなにか話そうじゃないか」
「「「…………」」」
空気を変えるべくそう言ったが沈黙を貫く3人。
「私の失恋話でもするか?」
「いや、君の失恋話の結末は大体予想がついているからいいよ」
蓮薙に冷たくあしらわれた。
お盆の冬師家 ぼちゃかちゃ @55312009G
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