2話
帰り道、偶然にも彰人と出会った。彰人が私に気がつくと手を振り、近づいてきた。
「家、こっち側だったんだな」
「うん。彰人も?」
「ああ、同じ方向だ」
その言葉を最後に、沈黙が流れた。今日あったばかりだし、パートナーの事もあって少し気まずい。
そして、気まずさに耐えられなくなり、何か話かけようとした時。
周囲の空気が一変した。冷たい風が吹き、不快感が漂ってくる。背後からは、べちゃ、べちゃと湿った音が響き、次第に近づいてくる。
音の正体に気づき、私と彰人は同時に振り返った。
「「あやかし…っ!!」」
声が重なった。私と彰人は目を合わせ、鞄の中から短剣を取り出した。彰人が霊力をこめると炎の形の赤い霊力が短剣にまとわりついた。彰人の霊紋は炎らしい。
「俺があやかしの気を引く。その間にあいつの核を探せ!」
彰人は迷いのない声で指示をだし、私はすぐに頷いた。
「分かった!でも、気をつけて…!」
あやかしの死亡条件は、体のどこかにある核を探し、破壊する事だ。
小さいあやかしなら霊力を込めた武器ですぐに倒せるが、それ以外だったら、核を破壊しなければならない。1人で核を探しながら戦うのは困難だから、神司と巫でパートナーを組む必要があるのだ。
あやかしは巨大で、目はギラギラと不気味な光を放っている。巨大な体を揺らしながら、唸り声とともにこちらに突進してきた。
私は攻撃を避け、彰人は避けながらも必死にあやかしの気を引いている。
「どうしたあやかし、こっちに来いよ!俺を狙え!」
彰人は声を上げ、あやかしの注意を引く。鋭い牙を剥き出しに、あやかしは一気に彰人に襲いかかった。彰人はそれを巧みに交わし、短剣で攻撃を仕掛け続けた。その度に彼の霊紋である赤い炎が舞い上がりあやかしの表面を焼くように揺らめいた。
一方で私は短剣を構え、核を探すためあやかしに霊力を流す。霊力を流すと、あやかしの足先から私の霊紋である花や蔦が現れ、体にそって巻き付いた。
「見つけろ…見つけろ…!」
あやかしの咆哮が耳をつんざく。私はその声を振り払い必死に集中力を保ち、核を探した。
彰人の息遣いが荒くなるのが分かった。
早く、早く見つけださないと…!
霊紋があやかしの首あたりに現れた時、違和感を感じ、先ほどの淡い水色とは違い、そこから濃い赤やオレンジの花が生えた。
「ここだっ!」
私はそれがあやかしの核がある場所だと、すぐに察した。
私は、体の倍近くあるあやかしに向かって走る。
「彰人!核を見つけた。投げるからどいて!」
集中力を高め、短剣にいつもより多めの霊力を流し込む。あやかしが勢いよく突進してくる。彰人はあやかしの足に向かって、短剣を投げた。
あやかしは痛みに耐えられず、動きが鈍くなった。
一瞬の隙。私は、首に向かって全力で短剣を投げた。
「行け…っ!」
見事に命中。赤やオレンジの花が身体中に広がり、あやかしは大きな呻き声を上げた。
「あ゛あ゛っ、うあ゛…」
声が聞こえなくなると、あやかしは霧のように崩れ、消えていった。
「やった…!」
安堵の声がもれ、私はその場に崩れ込んだ。体が重い。きっと霊力を使いすぎたんだ。
「天華、やったな俺たち!」
「うん。本当によかった…!」
彰人は私に手を伸ばす。その手を握って立ち上がったが、まだ回復できていないようで、また座り込んでしまった。
「だ、大丈夫か!?」
「うん、多分。きっと霊力の使いすぎね」
「そうか、大丈夫ならよかった」
「怪我してないか?」と言う問いとともに彰人は私の隣に座った。私は頷いたが、あやかしの気を引いていた彰人の方が怪我をしているのではないかと心配になった。
「彰人こそ、怪我してるでしょ?」
「ん、いや、ちょっと腕をかすっただけだ」
「見せて」
彰人は「大丈夫だ」と言って見せるのを拒んだが、私が何回も言うと結局は腕を捲って見せてくれた。
「血、出てるじゃない!」
「大丈夫だって、こんくらい」
「大丈夫じゃない。腕、貸して」
私は鞄からハンカチと水を取り出し、彰人の腕にかけ、ハンカチを巻いた。
「はい。それだけじゃダメだから、帰ったらちゃんと治療するのよ」
「ああ、ありがとな」
お礼を言って彰人はニコッと笑った。その笑顔を見ると、何故か心が温かくなる。少し、戸惑いも感じた。その時、彰人は肩をすくめて笑った。
「何がおかしいのよ…」
「ははっ、いや、やっぱり俺たちいいパートナーになれると思うんだよ。」
確かに、さっきの連携はとても今日あったばかりだとは思えないほど、息があっていた。彼の自信満々な言葉に私は少しだけ微笑み返す。
「確かに、そうかもね、」
「え、それって…」
「今日の事だけど、決めたわ。
私、あなたと組む。いいパートナーになりましょう」
私の返事に、彰人の表情が一気にほころび、満面の笑みで私の事を見る。
「本当か…!ありがとう。俺たち、最高のパートナーになろうな!」
彰人は立って手を差し出し、私も彼の手をしっかりと握って立ち上がった。
「絶対に後悔させないから。頑張って行こうな!」
「うん。こっちこそ、これからよろしくね」
◇
あやかしを倒した後、私たちは再び帰路についた。少し気まずさは無くなったはずだが、先ほどの戦いが嘘のように静かな道が続く。
「それにしても、天華が俺と組んでくれるなんて思わなかったよ。実は、結構断られると思ってたんだぜ?」
突然、彰人が口を開いた。その意外な言葉に私は驚いて聞く。
「え、そうだったの?」
「ああ、俺ら中学校は違ったじゃん?
でも、陽東学院を目指すやつのなかで、天華の名前はまあまあ有名だったんだぜ?神司と同じくらい強いってな。」
私がそんなに知られていただなんて、全然想像もしていなかった。私が驚いていると、彰人は笑いながらさらに続ける。
「それに、いざ会って話したり、さっきみたいに戦うと、冷静でしっかりしてる奴だなって思った。
それで、俺なんて相手にされないんじゃないかって思ってた。」
彼の様な自信満々に見える人でも、そんな事を考えるんだ。と、少し意外に思い、驚いた。
「そんなことないわ。むしろ私だって、あなたが天城家の人だって分かって少し緊張したのよ。
でも、一緒に戦ってこんなに息の会う人は初めて。それに、戦いは私一人じゃ無理だし」
「そうか。でも、そうだな。俺もこんなにすごいと思った戦いは初めてだせ」
「うん、これからも一緒に頑張って行きましょうね」
私の言葉に彰人は嬉しそうに笑みを浮かべて、大きく頷いた。その笑顔に少しだけ、心があたたまった。
あまり感情を表にだすほうではないと思っているが、彰人と話すと自然と気が楽になる。
「それにしても…今日のあやかし、変だったな?」
おもむろに彰人が呟いた。
「変?」
「ああ、人が少ないとは言ってもこんな昼に町中に出るなんて、珍しいというか…」
確かに、あやかしの多くは夜に現れる。こんな昼に出てくるなんて珍しい。
「じゃあ俺、こっちだから」
夕焼けに染まる帰り道。風が冷たく私たち2人の足音だけが響く。
分かれ道に差し掛かり、彰人は大きく手を振って家の方向へ向かった。
私も手を振り、翠玲さんが待つ家へと向かった。
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