突然の誘い


「行ってきます」

「行ってらっしゃい

 まさか天華てんかまでかんなぎになるなんてね」

「うん、やっぱり、翠怜すいれいさんに憧れたから…」

「ほんと?なんか照れるなぁ」


 私の言葉に翠怜さんは少し照れたような顔をする。


「じゃあ、入学式頑張ってね」


 ―昔から地球には“あやかし”という化け物が存在する。翠玲さんのような強いかんなぎ神司かんづかさが現れるまで人々はあやかしに困り、怯えていた。


 そんな人たちが現れたことで今では陽東学院ようとうがくいんという巫や神司を育てる学校を創り上げた。

 そして今日は陽東学院の入学式だ。


「ちょっと時間やばいかも…」


 少し急ごうとしたとき。


「だれ…かっ、助け、て…!」

「えっ!?」


 すぐ近くの公園から叫び声が聞こえた、私は時間なんてものを忘れて迷わず駆け込む。

 そこにはあやかしと小学生くらいの男の子がいた。


「っ…あやかし、!?」


 私は手を素早く動かして鞄に入れていた短剣を取り出す。霊力をこめると短剣が淡く光り、花や蔦のような形で、短剣に巻きついている。

 この光は霊紋れいもんと言い、いわば霊力のイメージのようなもの。霊紋は1人1人違い、一般的に多いのは雪や風、水といったものだ。


 あやかしを前に私の心臓は早鐘のように打ち始める。それでも男の子を助けないといけない。その気持ちが私を動かす。


『外すな』自分にそう言い聞かせてあやかしめがけて一直線に投げた。


「ぁあ…ぅあ、あ」


 見事に脳天に突き刺さり、あやかしはうめき声とともに霧のように消えていった。


「小さいのでよかった…

 君!大丈夫、怪我はない?」

「だい、じょうぶ」


 あやかしが居なくなり安心して涙も止まっているようだ。怪我もしていないようだし、大丈夫だろう。


「あやかしも最近多いからなるべく1人にならないようにね」

「うん、ありがとうお姉さん…!」


 男の子に手を振り、私はしばらくその場に立ち尽くしていた。そこにはまだあやかしの残り香が感じられる。


「あっ…時間やばいんだった!」


 時間が迫っていることを思い出し急いで学校へと向かっていった。


 ◇


「…セーフっ!

 危なかったぁ…」


 校門にはクラス表があり、人だかりができている。


(私のクラスは…あった1ーBね)


 教室に入るとすぐに先生が来て体育館へと連れられた。ステージの上には校長先生と思われる人が立っており話をはじめた。


 ―さっきも言ったとおり、ここはあやかしを倒す神司かんづかさかんなぎを育てる学校だ。

 神司は刀や槍など、武器を使って前線で戦う人。

 巫は主に神司のサポートをしていて、直接戦うことは少ない。

 神司と巫は協力して戦わなければならない。そのためにこの学校でパートナーを組む必要がある。

 そして今日はパートナーを決める大事な日だ。

 パートナーは、主に霊力の相性を考えて決める事が多い。


(誰と組もうかな、他の人の霊力は何となく分かるし、同じくらいの人を探すか…)


 探していると、少し制服を着崩した金髪の男と目が合い、男はまるで私を最初から知っていたかのようにこちらに近づいてきた。


「おい、そこのあんた」

「……え?私?」

「そう、あんたのことだ」


 ぶっきらぼうな口調にムカつき、少し冷たい口調で聞く。


「何?」

「…俺と組まないか?」


 男は私に挑戦的な笑みを浮かべてそう言った。


「…?」


 突然の要求に戸惑い言葉が出ない。

 どうして私?この人とは初対面のはず。初対面の人に話しかけられる理由なんてあいにく持ち合わせていない。冗談なのか、とも思ったが男の眼差しは真剣で本気で言っているように思えた。


「えっと…」


 言葉を探したが、何と言っていいのか分からない。そもそもなぜこの人は初対面の私を誘ったのか。他にも強い巫はいるはずだ。


「おっと、突然悪かったな、俺の名前は彰人、天城彰人あまぎあきとだ。あんたの名前は?」


(天城…!?)


 天城といえば、神司の名門だ。そんな人が何で私に…?自己紹介をされたのはいいが、名前すら知らないのに話しかけたのかと、ますます困惑する。

 私は少し苛立ちを感じながらこう言った。


「…私は神楽天華かぐらてんか。てか、名前の前に何で私なの?初対面だし、私より強い人たくさんいるじゃない。それに天城の名をいえば、パートナーなんてすぐに決まるでしょ?」


 やっとのことでそう問いかけると、彰人は目を見開き、肩をすくめて笑った。


「ははっ!確かに名前で寄ってくる奴はたくさんいる。でもな、それじゃダメなんだ。今朝、公園であやかしと戦ってたろ?俺、見てたんだ」


 その言葉に私は驚く。まさか見られていたなんて思ってもいなかったからだ。私は目を逸らしながらも彼に訊ねる。


「…みてたの?」

「ああ、あの時の霊力の使い方や立ち回りがすごかったし、あやかしに対する戦い方もうまい。それに自ら戦いに行く巫なんて、そうそういないだろ?」


 彼の言葉は冗談なんかじゃなく、本気で言っているようだった。でも私はどこか腑に落ちない。

 普通は神司が前線で戦い、巫はサポート中心に動く役目のはずだ。それなのに前線で戦っていた私をさそうなんて。


「…普通巫はサポートを中心に戦うでしょ。それなのに何で前線で戦う私をパートナーに誘うの?」

「?そんなの決まってるだろ。俺は1人で戦うより、一緒に戦ってくれるやつと組みたい。」


 彰人は自信ありげに言う。


「俺は、巫はサポートするのが当然って考え方嫌なんだ。戦いって一緒にやるもんだろ?

 それに強くなるためにも、あんたみたいな巫が、俺には必要なんだよ」


「…ちょっと考えさせて」

「…分かった。いい答えを期待してるからな」


 私の中では、彰人と組んでもいいかもしれないと言う気持ちの方に傾いている。前線で戦う巫だと知りながら誘ってくる人なんて他にはいない。

 でも彰人の事をよく知らないのにこんな簡単に組んでいいものなのか、戸惑う気持ちが大きくなる。


(…どうしよう) 

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