幽玄の花篝
双葉想
プロローグ
「ぐすっ…ひっ…おかあ、さんっ…!
たすけ、て……!!!」
その日は家族みんなで遊園地に来ていた。
だが帰る途中、突然巨大なあやかしが現れ、私たちを襲ってきたのだ。さっきまで賑わっていた様子とは程遠く、叫び声や悲鳴が飛び交う。
私は必死に逃げたが転んでしまい、足が痛くて起き上がる事が出来ない。突如として現れた霧で、周囲の色彩がぼんやり消えていく。
お母さんは妹を抱えて逃げ、私の事など気にもとめないようだ。
私は幼い頃から“霊力”が多く、昔死んだお父さんにそっくりだった。
そのせいか、妹と私の扱いの差 たお母さんからの冷たい目線をたまに感じていた。
今は嫌ってほど分かる
お母さんは私が嫌いなんだって。
「っおかあ、さん…!」
心臓が脱兎がのように早く、息が浅くなる。恐怖で全身が震えた。お母さんと妹の姿はとっくに見えなく、見捨てられたんだと感じる。嫌われていても、好きだった。ただただどうしようもない絶望感と無力感に駆られた。
霧の中から大きなあやかしの影が見える。全身はねじれた手が巻きついており、頭のような部分には大きさの違う赤い目がこちらを睨みつけている。
その大きな体で歩くたび、腐った卵のような匂いが鼻を突き、ぐちゃ、ぐちゃ、と鈍い音を響かせる。
何度も「助けて」 と叫んだつもりだったがその声は喉を通らない。
その時、突然鋭く空気を切り裂くような大きな音が響きわたり、あやかしの視線がそがれた。
「っ、きみっ!大丈夫か!?
「わかったわ、
突然現れたのは
深い藍色を基調としていて、男女ともに動きやすそうなズボン、スカート。女性の方は制服の胸元にある赤い大きなリボンが特徴だ。一見袴に見えなくもないが、襟には金色の刺繍で高校のシンボルマークが輝いており、そのデザインはどこか神秘的で威厳がある。
女の人は茶色の髪をゴムでまとめており、男の人は黒くさっぱりした髪で、特に目は力強い印象を与える。2人とも整った顔立ちだ。
女の人が、華奢な体に反して私を軽々と運んでくれた。
「ごめっ、なさい、足が痛くて…助けてくださいっ!!」
「大丈夫、あなたは何も悪くないわ。今、安全なところに連れていくから」
私は建物の中に連れていかれた。息を整えようとした。だが、心臓の鼓動はおさまらない。外から響くあやかしと戦う音は一向になりやむ気配はない。
その時、翠玲、と呼ばれてた人が私の顔を覗き込んで優しく微笑んだ。
「大丈夫、もう怖くないわ。私たちが絶対倒すからそれまでここにいて」
その言葉に私は安心感を覚える。「はい」と返すと、翠玲さんは建物から出ていきさっきの場所へ戻っていった。
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