第11話 真の自分

墨田デクスターがゴーグルを調整しながら、質問を投げかけた。

「秋山さん、こんな質問はいかがでしょう。魔法の森で迷った場合、最初に何をしますか?」


秋山は一瞬考え込み、少し戸惑いながら答え始めた。

「うーん…まずは、冷静になることが大事だと思います。でも、ただ冷静さを保つだけじゃなくて、その場で使える資源を探して活用することが大事かなと。例えば、森の植物や地形を使って自分の位置を把握したり、進むべき道を考える材料にします。あとは、森の音とか動物の動きにも注意を払うかもしれません。普通は目に見える情報に頼りがちですけど、五感をフルに使って判断することが生き残るためには重要だと思います。少しでも有利な状況を作るために、周りのあらゆる要素を活用しようと考えます。」


風間銀次郎は興味深そうに頷いた。

「周りの状況をフルに活用するという視点は柔軟ですね。次は、もう少し具体的な質問に移りましょう。」


「もしあなたが異世界の国王になったとしたら、最初にどんな法律を制定しますか?」


秋山は再び考え込んだが、考えがまとまると自信を持って答えた。

「まず、資源の公平な分配を考えますが、それに加えて、未来の世代にまで持続可能な社会を築くための法律も重要だと思います。たとえば、環境保護や教育に関する法律を強化して、長期的な視点で国を支える基盤を作ります。過去の歴史から学んで、現在の利益だけでなく、未来の可能性を最大限に引き出せるような法律を考えたいですね。実際のところ、具体的な方法については自分だけではまだ深く考えられないのですが、長期的な視野を持つことが重要だと考えます。」


炎上レイは満足げに頷き、「なるほど、未来を見据えた視点か。」と相槌をうつ。


続けて、翠川リリィが優しい声音で尋ねた。

「もし自分を魔法の生き物に例えるなら、どんな生き物だと思いますか?そして、その理由は?」


秋山は少し考えた後、笑みを浮かべて答えた。

「そうですね…フェニックスというのが浮かびます。再生の象徴で、どんなに困難な状況でも再び立ち上がる力があるとされますよね。私は、失敗や困難があっても、それを単なる失敗として終わらせず、そこから何か学んで次に活かすことを心がけています。それと、フェニックスは生き返るたびに少しずつ強くなるといいますが、私も同じように、経験を積むごとに成長していくことを大切にしています。そう考えると、自分の生き方に近い部分があるかなと感じます。」


翠川は少し興味深げに、軽く微笑みながら言葉を紡いだ。

「フェニックスを選んだ理由が、ただの再生力という点だけでないことに、あなたの独自性が感じられますね。再生の過程で何かを学び、より強くなっていくという解釈が、とても印象的です。その過程を重視する姿勢が、今後の成長に繋がるのではないでしょうか。」


翠川の言葉が終わると、次の質問へと炎上が繋げた。

「では、少し視点を変えて…もしあなたがドラゴンの友達になったら、どんなことをして遊びますか?」


秋山はこの質問にはスムーズに答えた。

「ドラゴンと、もし友達になれたら空を飛んでみたいです。地上では見られない風景を見て、ドラゴンの視点から世界を感じることができたら、新しい発見があるかもしれません。そして、ドラゴンの知恵や経験を活かして、一緒に冒険するのも楽しそうです。新しい経験を通して、まだ知らないことを学べる機会が増えれば良いのではないかと考えます。」


炎上は頷くと「新しいことに挑戦し、未知の世界を探求する姿勢が伝わってくるね。では、次に移りましょう。」と話を進めた。


風間が少し真剣な表情で質問を投げかけた。

「過去のプロジェクトで最も困難だった経験について教えてください。」


秋山は何となくホッとしたような気持ちで話し始めた。

「大学でデータ分析のプロジェクトをやっていた時、初期のデータにバイアスがかかっていることに気づいた時がありました。そのままでは研究が進められないと感じて、まずはチームで議論し、データのクリーニングをやり直すことに決めました。最初はうまくいかず、やり直しが何度も必要になりましたが、最終的には信頼性の高いデータセットを作り上げることができました。この経験から、焦らずに問題に取り組むことの大切さを学びました。そして、失敗から学ぶことで、次に進むべき道が見えてくると感じました。」


炎上がさらに質問を続けた。

「その中で、リーダーシップを発揮した瞬間はありましたか?」


秋山は少し考え込み、「リーダーというと難しいですが、サポート役としてチームの進行の要となる部分で、引っ張っていく場面がありました。特に、データのクリーニングがうまくいかない時期には、他のメンバーと協力して、問題点を共有しながら解決策を見つけていきました。各メンバーが持つスキルを最大限に活かせるように、タスクを再配分したり、進捗を確認するミーティングを提案したりしました。結果的に、全員が自分の強みを発揮できる環境を作ることができ、プロジェクトを無事に完了させることができました。」


デクスターが何かを考えるような様子で「具体的にどのようにしてタスクを再配分したんですか?」と尋ねた。


秋山はその時のことを振り返りながら答えた。「まず、各メンバーが得意とする分野やスキルを把握し、それに基づいてタスクを割り振りました。たとえば、データ解析が得意なメンバーにはその部分を集中して任せ、文献レビューが得意なメンバーには関連文献の整理をお願いしました。また、作業が進む中で負担の偏りが出てきたときには、進捗会議で全員の状況を確認し、必要に応じてタスクを再配分するようにしました。これによって、各メンバーが効率的に仕事を進めることができたと思います。」


デクスターが穏やかにコメントを続けた。

「チームワークを重要視していたのですね。では、少し違った質問をさせていただきます。」


デクスターが少し挑発的な口調で質問を投げかけた。

「もし私たちがあなたの提案を全て否定したら、どう反応しますか?」


秋山は一瞬わずかに面くらい、表情に迷いを浮かべた。そして少し間を置いてから、ゆっくりと答え始めた。

「否定…ですか。正直、全て否定されるとかなり厳しいですね…。でも、否定された理由をしっかり聞いて、その根拠を理解することが重要だと思います。もしかしたら、自分が見落としていた視点や、想定外の要素があったのかもしれません。うまく答えられるかはわかりませんが、そこから学んで次に繋げることが大切だと考えます。すぐには解決策が浮かばないかもしれませんが、時間をかけて改善の方向性を探るつもりです。…すみません、具体的にどう対応するかは、今の段階でははっきりとは言えないですね。」


風間はその回答を聞いて微笑み、「建設的な姿勢ですね。すぐに答えが出なくても、学びの姿勢を持ち続けることは大切です。では、次はもう少し違う状況を想定しましょう。」と話を続けた。


「もしあなたがリーダーとして重大なミスを犯した場合、どう対応しますか?」


秋山は少し考えた後、今度は落ち着いて答え始めた。

「そうですね…まず、自分のミスを率直に認めることが大事だと思います。チームに対して謝罪し、その後は問題の解決に向けて全員で協力することが必要です。でも、実際にミスを犯したとき、その場でどう行動するか…正直、完璧な対応ができる自信はありません。ただ、重要なのは、そのミスから学んで、二度と同じ過ちを繰り返さないための仕組みを作ることだと考えます。例えば、ミスの原因をチーム全体で共有し、改善策を全員で考えることで、次に繋げることができると思います。」


炎上は感心しながら、「責任感が強いですね。ただ、ミスを犯した時にどう行動するか、実際に経験してみないとわからない部分もありますよね。では、最後にもう一つ質問をさせてください。」と続けた。


「これまでに経験した中で、最も驚いた出来事は何ですか?」


秋山は一瞬戸惑いながらも、当時を思い出し少し微笑んで答えた。

「驚いた出来事ですか…。そうですね…昔旅行先で偶然、昔の友人に再会したことがあります。全く別の場所に住んでいたのに、たまたま同じ場所を訪れていたんです。それが本当に驚きで…、まるで映画のような瞬間でした。そういった偶然って、人生には時々あるんだなとその時に感じました。」


ーーー


風間は微笑みながら、「本日はありがとうございました。何か追加でお話ししたいことや質問はありますか?」と問いかけました。


秋山は少しリラックスした様子で答えた。

「このようなユニークな面接を経験できて、とても楽しかったです。少し考え込んでしまいましたが、自分自身のことをより知れた良い機会になりました。ありがとうございました。」


そして、ふと気になったように言葉を続けた。

「ひとつお聞きしてもよろしいでしょうか?…なんでこんな変わった質問ばかりなんですか?もっと、たとえば趣味のこととか、この会社に入ったらどうするかとか、そういったことは聞かないんですか?」


風間は少し笑みを浮かべ、しばらく黙って秋山を見つめた後、ゆっくりと口を開いた。

「普通の質問だと、普通の回答しか返ってこない。面白くないからね。」と、切り出した。

「面接ってのは、いろんな意味でリスクだ。面接官として、候補者の本音を引き出せなければ、その場でわからないことが、後々になって組織全体に響いてくる。だからこそ、決まりきった質問なんかじゃ、僕には彼らの本当の姿が見えてこないんだ。」


風間は少し視線を遠くに向けながら、言葉を続けた。「僕はね、形式的な面接が嫌いなんだ。決まりきった質問をして、用意された答えを聞く。そんなことを繰り返しても、その人の本当の姿なんて見えやしない。それに、面白くないしね。言いたいことをただ繰り返させているだけじゃ、結局、何もつかめないんだ。僕たちは、その人の表面部分だけじゃなく、深く関わるからこそ見えてくるものを引き出して、その人がどう考え、どう行動するかを見極める必要がある。だから、少し突拍子もない質問をすることがあるんだ。型にハマらない質問で、彼らがどう反応するか、その場の思考や行動が見たいんだよ。」


風間は秋山に視線を戻し、真剣な表情で続けた。

「君がどういう人物か、それを見極めるために、僕たちはこの場にいる。履歴書に書かれているようなことは、後で確認できる。でも、今この瞬間、目の前にいる君が、どんな考えを持ち、どんな行動をとるのかは、ここでしか見られないんだ。それがわからない限り、君が僕たちにとって有用かなんて判断、普通の人間である僕にはできない。」


風間は少し微笑んで、「趣味や、入社後の展望についてももちろん大事だよ。でも、それだけじゃその人の全ては見えない。僕が知りたいのは、君がどんな状況でも自分を持ち続け、どう対応するか。そういう人間性や、思考の柔軟さを見たいんだ」と付け加えた。


そして、風間はさらに一歩踏み込んで言った。「人はね、予期せぬ質問や状況に直面したとき、本来の姿が現れる。普段は隠しているかもしれないが、驚いたり、戸惑ったりしたときに、その人の本音や本質が浮き彫りになる。だから、僕たちはこういう面接を通して、君がどう考え、どう感じ、どう行動するかを見ているつもりだ。」


「まぁ、それが本当に功を奏しているのかは研究した事ないから確かとは言えないがね。あくまで経験に過ぎない。でもね、こういった質問を通して、君が自分のことを振り返るきっかけになってくれたなら、それはこの面接の目的を果たしていることになる。単なる一方通行のやり取りではなく、君自身も何かを得る場であってほしいんだよ。」


秋山はその言葉を聞いて、何かが胸の内に広がるのを感じた。それを実感し、しばし沈黙した後、しっかりと風間と目線を合わせた。

そして、「ありがとうございます。確かに、普段とは違う質問に戸惑いもありましたが、自分自身を見つめ直す良い機会になりました。」と返答し、緊張が解けた笑顔を浮かべた。


風間は再び微笑んで、「それなら良かった。君がどんなふうに成長していくのか、これからも楽しみにしているよ」と締めくくり、面接を終えた。


面接が終わり、最後の候補者が部屋を後にすると、面接官たちは自然と雑談のような雰囲気で意見を交わし始めた。


「秋山さん、なかなか興味深い視点を持っていましたね。」と翠川が話を切り出した。「グループディスカッションでも、彼が議論の流れを整理して、深めるきっかけを作っていた場面がありました。」


炎上が続ける。「彼の意見には、しっかりとした裏付けがあった印象です。特に、経済学を学んでいることが反映された提案がいくつかありました。コストや効率性を考慮したアプローチは、実務においても重要ですし、彼が普段から学んでいることを実際の場面で活かそうとしているのが感じられました。」


「ただ、少し消極的なところも気になりましたね。特に、グループ内でリーダーシップを取ろうとせず、意見をまとめる役割に徹していたように見えました。もう少し自分の意見を強く打ち出しても良かったかもしれません」と、墨田が言葉を選びながら指摘する。


風間がそれに頷きながら、「確かに。彼は協調性が高い分、自分を前面に出すことを控えているようにも見えました。リーダーシップを発揮する場面が少なく、少し守りに入っている印象も受けた。ただ、これも彼の性格やスタイルの一部かもしれません。成長の過程で変わっていく可能性もあると思います。」と補足した。


「それに、彼の趣味についても、少し平凡すぎるかなと感じました。ただ、そこから得ているものが多いのは評価できる部分です。彼は深く掘り下げる力があるようで、趣味の中からも多くのインスピレーションを得ているように見えました。感性が鋭いのかもしれませんね」と、墨田が続ける。


「即戦力としてはまだ発展途上かもしれませんが、彼の持つ柔軟性や成長意欲は、今後の成長に期待が持てる要素です」と、炎上が考え込むように言った。


翠川が少し微笑みながら、「これ以上話しすぎるのは良くないですね。まだまだ他の候補者の方々は大勢いらっしゃいますし、じっくりと議論する時間は別にあります。今後の正式な話し合いで結論を出しましょう」と締めくくると、面接官たちは軽く笑みを交わしながら、意見交換を切り上げた。

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