第7話 真の才能 -天外-

火炎のエネルギー化について、話が一つのまとまりを見せたところで、高橋陽介が前に出て、プロジェクトのプレゼンを進めた。

「次に、ドラゴンを飛行中に捕獲できるように、私たちは最新鋭のドローンを使用することを提案します。これらのドローンは、耐熱性を備え、ドラゴンの火炎にも耐えられるように設計されています。また、飛行ルートをリアルタイムで監視し、最適なタイミングで罠を仕掛けることができる機能も持たせています。さらに、これらのドローンは捕獲装置を装備しており、空中での捕獲を可能にします。これにより、地上にドラゴンを誘導せずとも、安全かつ効率的に捕獲できるのです。」


墨田デクスターは、「最新鋭のドローンを使用して、飛行中のドラゴンを捕獲する」という提案を聞いて、鋭い目つきを候補者に向けた。墨田は唐突に質問を投げかけた。


「面白い提案だが、そのドローンの耐熱性や火炎に対する耐久性は、具体的にどうやって実現するつもりなんだ? それに、リアルタイムでドラゴンの飛行ルートを監視し、罠を仕掛ける技術についても、詳細を教えてほしい。空中での捕獲となると、一般的な技術では到底実現できないレベルの精度が必要だが、その点はどう考えている?」


デクスターの質問には、明確に裏付けされた技術的な根拠を求める厳しさがあった。藤原は、彼の視線をしっかりと受け止め、準備していた答えをゆっくりと述べ始めた。


「まず、ドローンの耐熱性についてですが、私たちは最新の耐熱材料である超高温合金とセラミックコーティングを使用する予定です。これらの材料は、航空宇宙産業での実績があり、極限環境下での耐久性が証明されています。特に、セラミックコーティングは火炎を反射し、ドローン内部の温度上昇を防ぐ効果があります。」


デクスターの眉が少し動き、興味が増したようだった。藤原はその反応を見て、さらに続けた。


「これらの既存の耐熱技術に加え、少し特殊なアプローチを考えています。ドラゴンの火炎に直接さらされる前に、ドローンが自己冷却システムを作動させるように設計しています。このシステムは、冷却液をドローン全体に循環させると同時に、超音速で飛行することで、火炎の熱を分散させるというものです。これにより、ドローンが火炎の中心部に接近するリスクを最小限に抑えます。」


藤原は一度息を整え、続けた。

「次に、飛行ルートのリアルタイム監視に関しては、AIとビッグデータを活用した予測モデルを導入します。具体的には、過去の飛行データと天候パターン、さらにはドラゴンの行動アルゴリズムを解析し、最適なタイミングでドローンが捕獲装置を作動させることができるようにします。」


デクスターは藤原の説明を聞きながら、わずかにうなずいたが、まだ納得しきっていない様子を見せた。

藤原特有のゆったりと話すスピードが、ほんのわずかに早まった。


「さらに、リアルタイムの飛行ルート監視については、AIだけではなく、最新の量子コンピュータを活用して予測モデルを強化する計画です。量子コンピュータの優れた演算能力を用いることで、ドラゴンの動きをリアルタイムで追跡し、最も効果的なタイミングで罠を仕掛けることができます。また、AIとの連携により、予測精度を飛躍的に高めることが可能です。」


デクスターは目を細め、さらに興味を引かれたように藤原を見つめた。

「量子コンピュータ…それは普通の発想ではない。だが、実際にそれを応用するためには膨大なデータと精密なシステムが必要だろう。」


藤原は静かにうなずき、次の説明に入った。

「おっしゃる通りです。そこで私たちは、複数のドローンをネットワーク化し、それぞれが独自のセンサーとカメラを搭載することで、膨大なデータを収集し、瞬時に分析するシステムを考えています。このデータは、地上のコントロールセンターに送信され、量子コンピュータで解析されると同時に、ドローン間で共有される仕組みです。これにより、空中での捕獲作業を高度なチームワークで実現します。非常に高い精度でドラゴンの動きを捉えることが可能です。」


デクスターは他の面接官では気づかないようなポイントに目を向け、そこに革新性を見出すことを楽しんでいるようだった。

藤原はその反応を見逃さず、さらに言葉を続けた。

「そして空中での捕獲ですが、私たちはドローンに装備される特殊な捕獲ネットに、既存のカーボンファイバー技術をベースにしたものを考えました。カーボンファイバーは、軽量で強度が高く、耐熱性にも優れています。しかし、ドラゴンの火炎のような極限の環境下では、さらなる改良が必要です。」


藤原は一度言葉を切り、場の反応を確認した。デクスターは微動だにせず、藤原の言葉を待っていた。


「そこで、私たちは次世代素材であるグラフェンを採用することを提案します。グラフェンはカーボンファイバーと同様に炭素からなる素材ですが、その構造は全く異なります。グラフェンは1原子層の厚さでありながら、理論上、鋼鉄の約200倍の強度を持ちます。さらに、驚異的な軽量性と柔軟性も備えており、カーボンファイバーをはるかに超える性能を持っています。」


デクスターは手を組み、肘を机につけたまま動いていなかったが、目はしっかりと藤原に向けられ、続きを促すような意図が感じられた。

藤原は淀むことなく自身のプレゼンを続けた。


「加えて、グラフェンは熱伝導性にも非常に優れており、火炎の熱を迅速に拡散させることができます。これにより、ドローン自体の過熱を防ぎ、火炎に耐えられる構造を実現することが可能になります。カーボンファイバーが持つ耐久性をさらに強化し、ドラゴンの火炎のような過酷な環境でも効果を発揮します。」


デクスターは、藤原の説明を静かに聞き終えた後、口元にわずかな笑みを浮かべた。


「なるほど、カーボンファイバーの限界を超える素材としてのグラフェンの応用か。これは、他の誰も考えていなかった視点かもしれない。特に、熱伝導性と強度のバランスが取れた素材を使って空中での捕獲を試みるというのは、非常に興味深い。」


その笑みは、藤原の提案が単なる理論ではなく、実現可能性のある革新的なアイデアだと評価していることを示していた。


デクスターは、わずかに頭を垂れ、静かにうなずいた。

「普通の技術では実現が難しいが、君たちの提案にはそれを可能にするための新しい視点がある。特に、量子コンピュータの応用とグラフェンの使用は、興味深いアプローチだ。」


その言葉に、藤原は内心ほっとしつつも、表情には出さず、静かに頷いた。


「技術的な詳細がしっかりしていることは評価できる。だが、実際にそのシステムを動かす際の細かな運用についても、今後さらに検討が必要だろう。しかし、少なくとも基盤はしっかりしていることが分かった。」


藤原はその言葉に安堵しつつも、さらに具体的な技術の詰めを進める必要があると感じた。彼の回答は、単に質問に答えるだけでなく、新しい技術の可能性を示し、デクスターのような技術に精通した人物の興味を引くことに成功した。グループ内でも藤原の冷静な対応に安心感が広がり、全員が一体となってこの挑戦を乗り越えるための準備を整えていた。

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