第6話 真の才能 -覚醒-

風間の静かでありながらよく通る声が候補者たちにかかった。

「それでは、そろそろ発表をお願いします。どうぞリラックスしてお聞かせください。」


神崎が一歩前に出て、真剣な表情で発表を開始した。

「私たちのグループでは、ドラゴンの効率的な捕獲のためには、まず資金の調達が必要だという考えに至り、ドラゴン捕獲を事業化し、捕獲事業の実現可能性について徹底的に検討しました。このプロジェクトの目的は、ドラゴンの生態を研究し、その資源を活用することで地域経済を活性化させることです。」


神崎は、まずはドラゴン捕獲の基本戦略について話し始めた。

「まず最初に必要なのは、ドラゴンの火炎に対抗するための耐火素材の装備です。これがなければ、捕獲の前提すら成立しません。しかし、私たちはさらに進んで、火炎をエネルギーとして再利用する方法についても考えました。」


このアイデアを提示し、炎上がわずかに反応したのを神崎は見逃さなかった。彼女は内心の緊張を抑えながら言葉を続けた。


「火炎をエネルギーとして利用するというアイデアは、現実には技術的制約があるため不可能に近いかもしれません。ですが今回のテーマには異世界、ドラゴンといったファンタジー要素が強い設定が含まれます。不可能なことはないと仮定し話を進めさせていただきます。」


興味が失われていないことを確認した後、さらに踏み込んで説明を続ける。

「火炎のエネルギー利用に関して、私たちはまずプラズマ技術の応用を考えました。ドラゴンの火炎は非常に高温であり、プラズマ状態に近い性質を持つ可能性があります。これを利用して、プラズマ発電に応用することができます。具体的には、プラズマが持つ電磁的エネルギーを利用して、発電用タービンを駆動させるシステムを構築することが考えられます。」


炎上は腕を組んだまま、静かに頷いた。その反応に神崎はさらに勇気を得て、次のポイントに移った。


「また、熱電変換技術も活用できると考えています。ドラゴンの火炎から放出される熱エネルギーを、特殊な熱電材料を用いて直接電気に変換します。これにより、通常の熱利用よりも効率的にエネルギーを抽出することが可能です。この技術は、宇宙探査機などの過酷な環境でも応用されており、高温に強い素材を使えば、ドラゴンの火炎にも対応できると考えています。」


面接官達はそれぞれの目つきで彼女の言葉を捉えていた。彼女が具体的な技術の応用をどの様にプレゼンするか、吟味していることがその表情から読み取れた。


「さらに、蓄熱技術を組み合わせることで、ドラゴンの火炎を捕捉し、エネルギーを必要な時に放出できるシステムも考案しました。これにより、エネルギーの安定供給が可能となり、エネルギーの保存と運用のコストを抑えることができるでしょう。」


炎上はじっと神崎を見つめたまま、一瞬考え込むような沈黙が流れた。しかし、その表情には否定的な色はなく、むしろ彼女の提案に対する真剣な評価が滲んでいた。


「面白い着眼点だ。」炎上が静かに口を開いた。「プラズマや熱電変換、蓄熱技術といった具体的な応用についても考えているとはなかなかだね。」


彼は少し身を乗り出し、続けた。「しかし、問題はその技術をどうやって具体的に運用し、コストとリスクをどう最小限に抑えるかだ。君たちはそれについて、さらに考察を深められるか?」


炎上の質問を受け、候補者達は内心の緊張が再び高まるのを感じた。

その言葉は、ただの質問以上の意味を持っていた。面接官達は候補者達のアイデアに興味を持ち、さらに深く掘り下げてみる価値があると判断したのだ。


秋山はその瞬間、彼らが自分達の提案に真剣に耳を傾け、単なる絵空事としてではなく、現実的な視点から評価していることを感じ取った。彼の内心には、これまでの面接とは異なる手応えと、さらなる挑戦の意欲が湧き上がった。


秋山は自身に視線が集まるを感じた。財務面での質問に対しては自分が1番上手く答えられる。すぐに自分の考えを整理し、冷静に答え始めた。


「確かに、コストとリスクは大きな課題です。特に、ドラゴンの火炎をエネルギー源として利用するための技術開発には、初期投資が非常に高額になることが予想されます。しかし、ここで私は経済学の視点を取り入れ、公共と民間のパートナーシップ(PPP)を活用することで、この技術の開発と運用を現実的なものにできると考えています。」


炎上は少し興味深そうに秋山を見つめた。秋山は続けた。


「まず、ドラゴンの火炎をエネルギー源とする技術には、大規模な研究開発が必要です。そのため、公共セクターが初期の資金調達を支援し、リスクを分散することが可能です。また、技術が成熟し、商業化が見込まれる段階では、民間企業が参加することで、コストの削減と効率的な運用が期待できます。」


秋山は一度息を整え、さらに踏み込んだ説明を続けた。


「リスクに関しては、複数の段階に分けてプロジェクトを進行させるアプローチが有効です。まずは小規模な実証実験を行い、その結果を基に技術を改良し、徐々に規模を拡大することで、技術的な課題を解消しながら進めることが可能です。また、保険商品を導入することで、技術的失敗に伴う損失をカバーする体制も整えるべきです。」


炎上は秋山の答えに対して、さらに深く考えるような表情を浮かべた。彼は再び腕を組み直し、秋山を見据えた。


「なるほど、PPPの導入と段階的な進行、そして保険の活用か…現実的なアプローチだ。だが、これだけの話では単なる理論に過ぎない。実際のプロジェクトに落とし込むためには、さらに具体的なプランが必要だろう。それについて、どこまで考えている?」


秋山はその言葉に気を引き締めた。炎上が自分に対して本気で問いかけていることが伝わってきた。この瞬間、秋山は自分がただの就活生ではなく、真剣なビジネスパーソンとして認識されていることを実感した。


「具体的なプランについては、さらに詳細なシナリオ分析が必要です。市場調査や技術的なフィージビリティスタディを通じて、最も効果的なアプローチを検討し、リスクを最小限に抑えつつ、収益性の高い事業として展開できるようなモデルを構築します。また、成功事例を基にしたベンチマークを取り入れ、プロジェクトの進行を評価しながら柔軟に対応する体制を整えるつもりです。」


秋山の答えを聞きながら、炎上は静かにうなずいた。彼の目には、秋山の真剣な姿勢が映っていた。

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