第2話 心の可塑性

 下着を洗った。着替えもした。「ああ」とまたため息をついて、しかし、こういうのは良くないと自省する。


 僕は洗面台と向かい合う。「ああ」とまた言う。そうか、傷の窪みは戻らないのだった。洗面台に向かって咳き込む。ゴホッ、とかなり大きいのが四回くらい。心はプラスチックみたいな可塑性を抱いているのだなと思う。いや、そうか、プラスチックの語源がそもそも可塑性なのだった。だったら心も「プラスチック」と呼べばいいじゃないかと思う。


 パンデミックの傷は、まだ癒えない。


 僕はプラスチック製の歯ブラシを歯に押し付けてゴシゴシと擦る。鏡に映る自分の顔はいくらかニキビで凸凹としている。しかし、不細工というわけでもないのか? なんとかかっこいいという解釈にできないか。そうやって顔の向きを変えてみる。だが、そんなことをやってどうするのだろうと僕は思う。


 そういえば今日は颯との約束があって、しかしああいう夢を見た後だったので彼にどう接すればいいのか不安だった。


 思い出す。電気みたいにピリピリした水流が僕の皮膚の全体を舐め回す感じ。そういう形容が浮かんで、僕はなんていかがわしいんだろうと思った。

 僕は自室に戻る。そしてノートを取り出して、書いてみる。


「電気みたいにピリピリした水流が僕の皮膚の全体を舐め回す感じ」


 これは、なんというか、やばい。


 そのまま、思い出せるだけの夢のことを書いた。










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