松ぼっくり祭壇

福田

第1話 精液と「光あれ」

 今朝の夢。


 イソギンチャク。触手。まりもみたいな緑色のざらざらとした水中の生物に、イソギンチャクみたいな触手がついていて、それもざらざらとして見える。それらはいくつもあって、互いに狭いこの海の中を泳いでいて、そして、摩擦するのだ。

だけど、たまにそれらが溶け合って、一つの大きなまりもになることがある。だけど、たまに心臓が蠢いてしまって、破裂してしまうこともある。そういうスライムみたいな運動を続けていた。


 心臓を守るためのスライムという皮膚。そこから伸び出した触手。


 触れる。颯の唇に触れる。颯は僕の手を取る。僕もそれに応える。手と手が絡み合い、雑草の生えた地面に倒れ込む。草の匂い。青空が、驚くほどにひらけていた。


 僕らは松の木の公園で抱き合い、そして離れる。颯のまなざし。

僕は目を閉じる。颯は僕の唇に触れ、そしてキスをする。


 唇が離れて目を開くと、そこに颯の姿はなかった。傍らの松ぼっくりが潰れているのが見えた。

 実は彼は松ぼっくりの妖精だったんじゃないか。みたいな、くだらない妄想をした。


 悲劇の、ナラティブ。




***




 重たい掛け布団を深く被り直して夢の余韻に浸ったが、それは虚しかった。体の向きを変えると、違和感を感じた。どうやら夢精が起こったらしい。思わず「ああ……」と声を漏らしたが、不快なことが起こったと認めるのは嫌だった。僕は精液を穢らわしいと思ったことを後悔した。


 初めての夢精は十三歳だった。夢の内容は光に抱かれるというもので、明らかな性的なものは現れなかった。しかしその光の中で何かしらの性的体験をしたのは確かだった。その時僕は両親の反応を気にした。両親がクリスチャンで、もし夢精が宗教的な禁忌だったならどうしようと考えたから。


 ずっと前に洗礼をしないことを選んだこともあって、後ろめたさも感じていた。それでも父に夢精の後始末の方法を聞いた。父は少し驚いた顔をした後、「浴室で下着を洗ってから洗濯機に入れること」を丁寧に伝えた。思いの外あっさりとしていたので「教義では、夢精って良くないの?」と言いかけたが、やはり怖くなって質問を切り上げた。


 僕は仕方なく起き上がって、カーテンを開ける。朝陽に晒されてたまらなく隠れたくなったが、日光を浴びないと精神に悪いという母の忠告を思い出す。むしろ、僕はこちらから晒すくらいに腕を広げて朝陽を浴びた。悪い気分はしなかったが、どこか後ろめたく感じた。それは、今自分がして見せたように朝陽を浴びるのも憚られるほどに、光を拒絶する人々の存在を知っていたからだったし、何より颯もそうだったから。


 あえて「光あれ」と呟いてみせて自室を出た。

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