最終章 ダーズリンホテルの魔窟
第39話 空室の宿泊人
「ごゆっくりおくつろぎくださいませ」
客の案内が終わり、私はロビーへと戻った。するとロビーのテーブルに大きな封筒が置かれているのに気が付く。どうやら外からの郵便のようで、宛名には“リエスティ・ディ・ホテル総支配人様”と書かれていた。つまりは私、ロキオズ宛ということになる。
私が総支配人になってから、約一年が経とうとしていた。それは同時に、父のゼラスが亡くなってから一年が経つことを表していた。この一年は目まぐるしくて、とにかく早かったように感じる。これまでのことを思い出しながら、私はその封筒を開けた。
「これは……」
封筒の中には数枚の紙が入っており、そこには旅客の予約リストと、部屋番号が書かれていた。このリストは見たことがなかったが、父から説明は受けていた。毎年水と花のお祭りの準備がリエスティで行われている頃に、リエスティ・ディ・ホテルは来訪しない客によるの大量の予約によって満室となる。
その予約は毎年リストになってロビーの机に置かれているのだと聞かされた。リストで予約されている部屋のことは父がすべてやるので、絶対に部屋は開けずに、実際にホテルに出向いた客の接客をするようにと言われていた。これまでは父から言われる仕事を必死にこなしていて、特に疑問に思っていなかったのだが、なんだったのだろうと今更その奇妙さに気がついた。
いざ自分がその部屋の接客を行うなら、事前にもう少し情報が欲しかった。
「……えっ」
何気なくリストを眺めていると、私はあることに気が付いた。
「う、そ……ピッテ……ロークナー……?」
リストの一枚目に見知った名前を見つけた。一年前までこのホテルで給仕として働いていた男の名前だった。彼は凶悪殺人鬼によって殺されてこの世にいないはずだ。彼もまた、死後一年が経とうとしていた。
私はリストの他の名前も注意深く見ていった。すると知っているような名前をいくつか見つける。そしてその中に――。
「……ゼラス・トアーク」
父の名前を、見つけた。
「…………」
リストの一番後ろの紙には添え状のようなものがある。内容は、宿泊客に対してどのような施しを行うのかということだった。
リストに載っている人物たちは二日間このホテルに宿泊するらしい。その後に水と花のお祭りへ出発するという。
夜中になったら、彼らが止まる部屋のドアノブに金粉をかけておくことで立派なもてなしとなるらしい。その他は何もせず、部屋には絶対に入らないようにと書かれていた。
私は急いで父が使っていた自室へ走った。父が金粉を入れている戸棚は把握していたからだ。
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