第34話 拘束者たち

 狼はものすごいスピードでホテルの敷地を抜けてすぐに見えなくなる。


「うまく行きましたか?」

「ええ。気性が荒いと思っていましたが、優しい子でした。すぐに戻ると言ってくれました。お肉はとても美味しかったようです。本当にありがとう」

「えっ、あっ……。喜んでいただけて何よりです」


 僕は簡単にだが今起こったことをトグアビさんに話す。彼はかなり驚きながらも自分ではとても思い付かないことだと感心していた。どのぐらいでつけるのか、逆にどのぐらいにつかないと間に合わないのかを三人で話しながらアリアムの元へ向かった。

 彼はベッドに寝かされており、グレイエがそばで見守っている。拘束されていたはずのロキオズとロミも解放されたようで、二人も部屋にいた。


「そ、総支配人……!」

「すまなかったな、トグアビ」

「よかった。そうですよね、殺人も何もしていないのですから、もう自由ですよね」


 ロスコの言葉に申し訳なさそうにしながらロキオズは目を伏せる。


「……実は、拘束という名目で皆様から離れていただけでして。昼食時間以外はスイートルームで休息をいただいておりました」

「えっ」

「そうなの。私も驚いたんだけど、グレイエさんがね、犯人は別にいるから少しだけこの芝居に付き合ってくれないかって。かなり快適だったし、人目につかないようにしてたから身も守れてたんだ。さすが警視総監さんだよね」


 グレイエはそれについて何も語らないが、先ほどの言葉から、ノイを追いかけてこのホテルに来たことは知っていた。ロミは友人を失った悲しみから目を背けるようにそう言って笑っている。


「グレイエ警視総監殿は凶悪殺人犯逮捕のため、嘘の理由をついてまで、一時的にその席を降りているのでございます! 本日その任務を立派に全うされました!」


 警官が敬礼しながら補足してくれる。それでもグレイエは何も言わなかった。ただ眠っているアリアムを見つめている。その姿が、僕の両親と重なった。どくん、と心臓が鳴る。


「……アリアムは助かります」


 僕がそれだけを言うと、グレイエはゆっくりと僕を見る。彼はこのホテルにきて初めて、優しい目をして感謝を述べた。


 それから数時間が経ち、ロビーから遠吠えが響いた。僕とロスコの二人は聞こえた瞬間に部屋を飛び出す。ロビーに走り寄れば、送り出した白銀の狼がこちらをじっと見つめていた。


「おかえりなさい!」


 僕は彼を撫で回して首に括り付けられている布をゆっくりと取り外した。水飛沫を払うように、彼は体を捻って震わせている。ロスコが彼を優しく撫でて念じるように微笑んでいるのを横目に、僕は布の中身を確認した。


 そこには、小さな小瓶と紙切れが入っていた。

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