第31話 ルール違反?
「おそらく息子さんにその場で会っていた人物たちが死に間接的に関わってしまった。ずっと前に起こったことだからこそ、今殺人が起きたのも分かります」
「それはどうして?」
「では、仮に事件が二十年前に起きたことだとしよう。二十年前の総支配人であるゼウスさんは私たちより少し年上くらいの若い男性だろう」
「若い男性は殺さないルール……?」
「そう。ゼウスさんを恨んではいたけど、自分のルールに反するから実行ができなかった。でも今は、若い男性という括りから外れる」
「じゃあ、ピッテさんはどうして?」
当然の疑問だ。ゼウスさんを殺害するために二十年待った男が、何故ピッテさんに手を出してしまったのか。
「それが私も解せないんだ。さっきグレイエさんも言っていたが、ルールを破ってまでピッテさんを殺害したのは何故だ?」
「……私の殺人は、息子の無念を晴らすためのものだ。息子の死に関わった全ての人間を消せば完了する。だが、どうしても息子を重ねてしまって、若い男は殺せなかった。それは今も変わらない」
「しかし殺人は起きた。殺してしまったのを認めたくないだけだろう」
「僕もそう思います。若い男は殺せないというのは強い思い込みで、今回たまたまそれができてしまった。ピッテさんの年齢を考えれば事件当時子供だったはず。彼になんの恨みがあったんですか」
「確かに、あの子供は現場にいた。成長したら殺すつもりだった。だが違う、私は……!」
ガタッ!
「リエスティ警察です!」
部屋の扉が開く。そこには武装した警察官が数名立っている。グレイエを見てから驚いたように顔を見合わせ、敬礼をしてから奥で座り込むノイを取り囲んだ。
「ノイ・グウァーナーだな。殺人の容疑で連行する」
「ちょっと待て、まだ話は……! 私は殺してない!」
「間違いなく本人だ。連れて行け」
「はいっ!」
ノイの騒ぐ声が遠ざかっていく。僕はその声を聞きながらようやく詰まっていた息を吐いた。警察がたくさんいるだけで、もう任せていいんだと気が抜けた。
「リアム」
「もうその名は捨てました」
「何故捨てるような真似を?」
「これまで兄さんや姉さんたちがみんなあなたの名誉のために命を落としたのを私は忘れていない。ああなりたくないからダーズリンの家を出たんだ。その時に名前も捨てた」
「ダーズリンの家に生まれたのだから、人民のために命を捧げるのは当然だ」
「兄さん達は人民のために死んだんじゃない。あなたの立場を維持するために死んだんだ。勘違いする、……な……」
ガクっと力が抜けたようにアリアムが床に座り込む。先ほど斬られた腕の傷を手で押さえて目を固く閉じていた。額には脂汗が滲んでいる。
「アリアムっ!」
「まさか……ナイフに毒が!」
「すぐに解毒を!」
「しかしどうやって……」
周りが慌てている間にもアリアムは苦しみ続けている。背中を嫌な汗が伝った。
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