第30話 息子
アリアムはこちらを見ずにそっと胸に手を当てる。
「リアム・ダーズリン。それが私の本名だよ」
「え……ダーズリン……?」
「そう。私はあのダーズリン家の血筋なんだよ。そこにいるグレイエは私の父だ」
「グレイエさんの……息子……アリアムが……?」
「申し訳ありませんお嬢様。ダーズリン家とは縁を切っておりまして、お伝えする必要はないと考えていたのです」
「それを咎めるつもりはないわ。ただ、知っておきたかったとも思った」
「申し訳ありません。お嬢様には何も知らずにいて欲しかったのです」
「ならなぜ、グレイエさんの名前を見た瞬間から目に見えて焦り、ロスコさんを巻き込んで入れ替わるようなことを? そんなことをすれば、ロスコさんが疑問に思うのは当たり前だと思いますが」
「フロントで父親の筆跡を見つけて、とにかく慌てた。冷静でいられなくなったんだ。縁を切ったはずの相手に会いたくなかったのもあるが、何よりも警視総監という立場でありながら人を殺めることをしたと聞いたからね。もしお嬢様が標的になったならと怖くなった」
彼の言葉に、グレイエは否定も肯定もしない。ゆっくりと歩を進めてノイを一瞬で押さえ込んだ。ノイは抵抗してナイフを振り回すも、腕を叩かれて手を離してしまう。
「っ! 離せ!!」
「ようやく捕まったか。長い戦いだったなぁ、ノイ」
「グレイエ……やはりお前は」
「貴様を捕らえるため、しばし暇をもらった。警視総監という役職はなかなか席を開けることができない面倒な席でな。過去の貴様の罪を私に被せて世間的に役職を離れさせてもらった」
「ふっ……バカめ。もう返り咲くこともできまい」
「心配は無用だ。それよりも、貴様の罪についてこの場で明らかにさせてもらおうか」
「ふん、とんだヘマをしたものだ」
「貴様の殺人にはルールがあったはずだ。ひとつは必ず動機がある場合に殺人を実行すること、そして若い男性は殺さないこと。ルールを破った理由も気になるが、まずは動機から聞かせてもらおうか」
「そんなこともわからないのか」
ノイは言う気がないらしく、そっぽを向く。完全に身動きが取れないように丁寧に縛り上げられた。会議で投票された二人の縛られ方と比べると、かなりの差がある。それほどの殺人犯を目の前にしていると自覚して僕は身を引き締めた。
「動機は、おそらく息子の死でしょう。息子さんが亡くなられたのはリエスティの宮殿でしたね。その場に今回の被害者たちがいたのではないですか?」
アリアムが言うと、ノイはぴくりと片眉を動かす。どうやら当たっているらしい。アリアムが何故そんな情報を持っているのかと疑問にも思ったが、そのまま話を聞くことにする。
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