第25話 深まる疑念

 それではますますグレイエが怪しくなる。外出を禁じている彼自身が敷地外にある遺体を発見しているのはおかしい。しかしそれと同時に、敷地外に出る人などはいない前提なのだから、発見したと報告しなければ怪しまれないのにという考えも浮かんだ。

 ホテルの敷地外での遺体の発見をこの場で公言している時点で、グレイエは自らが疑われる要素を増やしているように思える。それでも今は、問い詰めるしかない。


「グレイエさん。ホテル内の全員の行動範囲をホテル内に制限しておきながら、自分は外に出られていたのですか?」

「当然だ。我は警視総監としてこの場を仕切る身。皆の安全を守り、探索は行う」

「……あなたも容疑者の一人ですよ。あの事件のことも僕は知っています」


 そう言えば、グレイエはほう、と声を漏らして片眉を上げて僕に近寄ってくる。まさか知られているだろうとは思っていなかったらしい。


「知っていながら黙っていたのか。まあいい。まずは今日のことについてだ。他の物の話を先に聞かせてもらおう」

「いいえ。彼の言葉に向き合ってください。私は今、あなたを一番怪しいと思っております」


 ロスコさんが言うと、それに同調するようにマロメさんが口を開いた。


「そうです! いくら待っても警察は来やしない! あれからもう丸二日が経とうとしていますよ! 隣町の警察であれば、相当早い馬を所有しているはず。緊急と伝えれば半日程で着くはずです!」


 グレイエはため息をついて、ゆっくりとヒゲを撫でた。全員の血走った目線が、彼の体を貫くように睨みつける。


「電話線が切れておったのだ。リエスティの警察本部と隣町には鳥を飛ばしている」

「鳥って、そんな」

「それじゃあ助けなんて来ない可能性の方が高いじゃないか!」


 この世の中での連絡手段といえば三つしかない。一つは馬車を使って自らが移動すること。郵便屋が訪れる場所に出向いて依頼をすること、そして最後に鳥を飛ばすことだ。この鳥を飛ばす手段というものは一番確実性が低い方法になる。リエスティに生息する鳥は浮気性で、飛んでいるうちに目的を忘れて自らのやりたいことをする傾向が強いからだ。

 長年多くの調教師が鳥を訓練してきたが、確実に依頼をこなす鳥は未だ現れていない。ただ、ちゃんと仕事をまっとうできる時もある。十分の一くらいの確率だが。


 みんながざわざわと騒ぐのをグレイエは黙って見つめていた。その落ち着いた姿に、次第にみんなが静かになっていく。ただならぬオーラのようなものを彼がまとっているのは事実だった。


「状況を考えてみたまえ」


 グレイエの視線はロミに向いていた。彼女はおびえたように目をそらしている。


「殺害が起こったのは夕方。多くの従業員と我、そしてボア殿とロスコ殿は離れにいた。ホテルの森側の三階で起こった殺人に関わることは難しい」


「あ、あの……」


 ホテルマンがおずおずと手を挙げる。

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