第26話 二人目の拘束者
「ノイ様にも犯行が難しいことを証言させていただきたいです。彼は昼過ぎから夕食までの間、野外プールのサービスをお受けになられていましたので」
「野外プール?」
「ええ。屋上にあるプールです。ご希望で夕食もそちらにお運びいたしましたので」
「ずっと見ていらっしゃったんですか? 特に犯行時刻についてお聞きしたいです」
「いいえ。お呼び出しがあった時だけです。犯行時刻は夕方とお伺いいたしましたが、夕方に食事をお運びして、ほんの三十分程で皿を下げるように言われてそのように致しました。使用済みの皿を厨房に持っていく途中でロビーに入っていらっしゃるグレイエ様をお見かけいたしましたので、犯行時刻は食事をされていたものと思われます」
「夕食は僕らが食べたものと同じですか?」
「あっ、はい。同じものをお作り、い、いたしました」
僕の問いにトグアビが答えた。それでは犯行は難しいだろう。僕は結構急いで食べたのに、一時間近くかかったからだ。昨日の投票で、ロキオズとほぼ同数票だったこともあり、少し慎重に話を聞いておく。
「屋上の構造をお聞きしようか」
「このホテルの建物の広さとほぼ同じです。中央に広いプールがあり、山から遠くの街を見渡せます」
「なるほどな」
「左様。私に犯行など到底できないのだよ。ずーっとプールにいたのだからな。ほら、手がふやけるほどだ」
ノイは自慢げに僕らに掌を見せてきた。歳のせいじゃないのかという言葉を飲み込んで状況を整理する。しかしそんな間も無く、グレイエが再び口を開いた。
「それ故に、もう怪しい人物は一人しかいないだろう」
「だ、誰ですか? まさか……」
グレイエはロミを手で示した。ロミは涙を浮かべながら一歩後ろに下がる。
「わ、私が……、っ私が! エルを殺すわけないじゃない!」
「動機の話ではない。物理的にな可能な人物の話だ」
「そんなの……!」
他に疑わしい人物は確かにいなかった。でも、ロミがやったとも思えない。反論が見つからないまま、投票用紙が配られる。何も書かなければ拘束されてしまうので、誰かの名前は書かなければならない。
どうすればいいんだ……? 誰か怪しい人はいただろうか? 正直生存者の中で一番怪しいのはグレイエだと思う。不自然に自分の話から遠ざかり、ロミが犯人であると決めつけているから。しかし、僕は何もできなかった。
考えても答えは出ない。僕は僕自身の名前を書いて提出することにした。話の流れで僕とロスコに票が集まることはないとわかるからだ。これは白紙の投票と同じ意味を持つ。
「それでは回収しようか」
票が開かれて行き、三票を除いた他全てがロミに入った。そのほかはグレイエが二票、僕が一票だった。
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