第18話 離れ

「どこだろうか?」


「離れの建物の地下に、鍵がかけられた扉がありまして。そこは天井が崩れる可能性があるから入ってはいけないと。何度も叱られた覚えがあります。そこはVIP用の酒蔵だと聞いていたのであまり気にしてはいませんでしたが、酒蔵は厨房の近くに別で用意があり、離れは使っている様子はありません。まあ、僕は鍵を知らないので、入ることは叶いませんでしたが」


「確かに。離れのようなものがありましたね。まずはそこに行ってみましょうか、アリアムさん」


「ああ。本当にありがとう二人とも。ロスコも付き合わせてすまないな。早速行こうか」


「申し訳ない、せっかくの昼食が冷めてしまいましたね」


 ロキオズの手元のプレートからは湯気が消え、出来立てとは言えない状態になっていた。しかし彼はニコリと笑ってスプーンを握る。


「問題ありません。トグアビの料理は、冷めたくらいで味落ちはしませんから」


―――

 離れに向かいながら、僕たちは事件について話していた。犯人は誰なのか、今日投票されるのは誰なのか。こんな話、みんなしたいわけではなかったが、せずにはいられないほどのストレスを抱えていた。


「新米の総支配人、新米のシェフ……そして大ベテランの警視総監」

「浮いているよね」

「そうですね。まあ、安心感はとてもあるのですが」

「立派な警察官だとディや国境の向こう側まで噂が届くほどだ。これまでたくさん尽力されてきたのだろうね」


 離れに辿り着き、地下へ降りていく。暗い道を歩きながら話題はグレイエについてに変わっていった。アリアムはグレイエに対して堂々とした態度をとっているので、つくづく貴族のご子息は過酷な教育環境に身を置いているのだろうと想像する。あんな大男相手に、堂々と反論できるのは彼くらいなものだ。


「ついた」


 地下へ降りて行った先に小さな扉があった。扉は推しても引いても開かず、ダイヤル式の南京錠がかけられている。


「何番でしょうか?」

「うーん、わからないな」

「ロキオズさんもわからないと言っていましたね」


 設定できる数字は四桁であり、総当たりするにも時間が足りなそうだ。正しい番号を探す方が賢明に見える。


「誰かの誕生日とか。僕の屋敷はそうしているところが多くてね」

 アリアムの言葉に僕は首を捻った。

「ありえますが……。当人やその人を知る人たちが亡くなった時に、二度と開かなくなるので、長く続く家業で使うものには使わないのが一般的です。誕生日は個人用の金庫などによく用いますよね」


「それもそうだな。うちにも開かなくなってしまったか鍵がいくつもあるよ」

「指の……」


 ロスコがそっと呟く。僕は彼女の声に耳を澄ました。

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