第19話 南京錠

「指の跡で、擦れている番号にするのはいかがですか?」

「さすがロスコ。すぐに試してみよう」

「八……四、五……三」


 ロスコさんの言葉通りに指を動かしていく。全てのダイヤルが揃って鍵を引っ張ってみたが、固く閉じたままだった。


「うーん……開きませんね……」

「参ったな……」


 番号で思い当たるものはそんなにない。ロキオズが知らないとなると、かなり厳重に取り扱われているのか、もしくは杜撰な管理下で予測可能な番号か。


「思い当たるものを試してみようか」

「ここの創設日……はいかがでしょうか?」

「僕もちょうどそれを考えていた。だがロスコ、覚えているか?」

「いえ……」


 ロスコが口ごもり、僕は記憶を辿った。創設日は確か……。


「確か六月十九日だったかと」

「ほう……よく知っているな」

「ロビーの台の上に乗っていた置物に彫ってあったんです。絵を描くためによく記憶しておりましたから」


 感心しながらアリアムはダイヤルを回した。しかし鍵は開かない。


「違いましたか……」


 電話の番号や思い当たる数字を次々に試していく。しかしどれも正解ではないようで、すでに一時間が経とうとしていた。この鍵のダイヤルはフェイクで、開かないものなのではないかと思うほど、考えるのに疲れてきた。そこで、僕はあるものに思い当たる。


「番地はいかがでしょうか? 建物がそこにある限り変わらない番号なので、昔は使われることが多いとよく聞きました」

「試してみようか」


 アリアムがダイヤルを回す。ここの番地は一六五二なのでそれに合わせていく。


 カチャッ……


 鍵はゆっくりと開き、そのまま南京錠が床に落ちる。アリアムは嬉しそうに振り返った。


「素晴らしい。流石ボアさんだ!」

「開きましたね! よかった……」

「はあ……やっとか……しかし、入ることができて本当によかった。早速調べるとしようか」


 そう言うと、アリアムはロスコに微笑む。それに応えるように、ロスコは大きく頷いた。僕は入り口付近を、二人は建物の奥を調べるつもりらしい。


「天井、気をつけてくださいねー!」

「ありがとうー!」


 部屋の端から端までを声を張って話す。ミシミシという音と共に、天井から砂埃が落ちてくるのは非常に気になったが、ずっと立っていた建物が今日になって崩れることもないだろう。ロキオズが言われていた崩れやすいという理由は入らせないための脅しではなく、本当のようだとは思った。


「えーっと……どれどれ」

 僕は手近にある本へ手を伸ばした。タイトルには記録書と書かれている。どうやら百年以上前のものらしい。昔の書物なのに、文明学に明るくない僕でも文字は不思議と読むことができた。


「リエスティ東部の端へのホテル建設の計画書」


 このホテルができる頃に書かれた書物のようで、だいぶ古いようだ。

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